散歩道<938>

                   経済気象台(27)・油を以て油煙を落とす            

 サウジアラビアのアブドラ国王は1月、1990年の国交樹立以来初めて中国を訪問し、23日にはエネルギー資源の2国間協定に調印した。一方、ブッシュ大統領は31日、連邦議会で一般教書演説をし、中国、インドは「新たな競争相手」と述べるとともに、輸入原油依存から脱却する代替エネルギー開発を提案した。共産主義と王制サウジの奇妙な握手、それを狙って牽制球(けんんせいきゅう)を投げたかに見えるブッシュ大統領は、儒教・イスラム連合が西欧文明と対決する可能性を説いたハーバード大のサムエル・ハンチントンの著書「文明の衝突」の図式を思い起こさせる。サウジ最大の原油輸出相手国は長いこと米国だったが、世界第二の石油消費国になった中国がいまや米国にとって代わり、中国は年間2千万トンを超える原油をサウジから輸入、石油総輸入量の15%を サウジ産油でまかなっている。一方、トヨタのハイブリットカーが米国で爆発的な人気を博しているように西側先進国の代替エネルギー開発戦略も着々と進んでいる。サウジがこうしたサウジ西欧の脱石油傾向に危機感をもたないはずはない。同質もので効果をあげる「油を以て油煙を落とす」で、サウジは中国内の石油の備蓄基地や製油施設に投資するほか、中国も共同でアフリカでの石油資源の「開発に乗り出す。これは脱石油時代の到来に備えて、当面は石油離れの出来ない開発途上国を手元にひきつけておき、出来るだけ石油本位制を維持していこうという地政学的同盟である。イラクをはじめ世界に民主化を強制しようとするブッシュ政権のネオコン哲学に警戒感を深めている一党独裁政権と王制国家の利害が体制を超えていみじくも一致した姿も見える。著書「文明の衝突」を「経済学がまるで分かっていない」と酷評されたハンチントン教授もほくそ笑んでいるかも。

'06.2.13. 朝日新聞