散歩道<900>

                       経済気象台(20)情報化社会の基盤

 情報化社会と呼ばれる現代では、あらゆることが応報(ソフト)を軸に動いているように見える。ソフトこそ新しい産業で、ものづくり(ハード)は何となく後進国的産業のように言われることすらある。しかしながら、よく考えてみれば、珪(けい)石からシリコンを生産し、その小片に数億個ものトランジスターをつくりこむ半導体製造が確立して初めて、情報化社会を支えるコンピユーターやその他のツ−ルが普及したのだ。テレビが生まれたばかりの頃は、電球ほどの大きさの真空管が数十本も使われ、その発電の為にテレビの上で目玉焼きが出来るほどで、「オープンテレビ」なる名がつけられた。当然のことながら、これでは実用に耐えられない。コンピユーターも同じである。1946年に完成した世界最初の実用的な汎用コンピユーターとされる「ENIAC」では、18千本もの真空管が使われた。その頃のコンピユーターは、動いているよりも故障している時間の方が長かったといわれる。今ではシリコン基盤の中に数億、数十億個のトランジスターが埋め込まれるようになっているが、その技術の信頼性はきわめて高い。ところが、シリコンにも、そろそろ限界が見えてきた。現在、最先端の集積回路基板の使用電力は100ワットに迫ろうとしている。このままいけば、情報機器の信頼性がもたなくなるのは時間の問題である。それは同時に現在の情報化社会が限界に近づきつつあることを意味する。シリコンに代わって、熱に強く(熱伝導性が高く)電気に強い(電子伝導性が高い)新しい素材の開発が重要な課題となっている。かかる意味で、いま世界の底流ではソフトからハードへの回帰が始まっているのだ。日本も「科学技術国」を国是とするのならば、そろそろソフト万能の夢から目覚めてもよい時期ではないか。

'06.2.朝日新聞