散歩道<847>       大集合(371)・1640
                         
                    時流自論愛国心」と「愛民心」(3)作家・藤原新也様   (1)〜(3)ヘ続く

1640 それから、愛国心を掲げる人たちは愛とは他者との相互関係において成り立っという基本的なことを忘れている。愛国心、つまり「民が国を愛する」ということはすなわち「国が民を愛する」ということ相応の関係であらねば成らないわけである。親子の関係になぞらえれば、親(国}が子を愛するからこそ(国民)は親を愛する。仮に「愛国心」と言う言葉があるなら、それに相応した「愛民心」がという言葉とその行いがあってしかるべきなのだ。しかし、この平成の世にあって、他の国から、お前の国にはその「愛民心」があるか、と問われれば、私もどうも自信を持ってイエスと答えることは出来ない。というより近年の国の行いを思いおこしてみるとに、国家は逆に民を欺いているのではないかとの感すらある。社会保険庁は国民の生命線である年金保険を湯水のごとくムダ使いする。「設ける!」の"標語”の元に百余人もの国民を殺したJR宝塚線脱線事故の事例をよそに「民営化はうまくいっている」と遺族の神経を逆なでするような発言をする政治家がいたり、国民が一生の買い物である住居から追い出されるという前代未聞の出来事がどうやら官民一体となったごまかしの産物の様相を呈していたり、と「愛民心」どころか「棄民心」という造語までうまれてもよさそうな世相ではないか。若者のことで言えば昨今フリータが遡上にのぼり非難されることがしばしばあるが、今日の日本の劣悪な労働環境こそが彼らを生んでいる側面がある。指先ひとつで一部のIT長者が生まれる半面、多くの若者は派遣社員とか契約社員というこのわけのわからない「使い捨て雇用システム」の中でもがいている。真面目な労働を提供して国家に寄与しながら身分を補償されないこの使い捨てシステムは労働基準法違反であると私は思っているが、そういう基本的生存権の剥奪(はくだつ)が平気でまかり通っている国なのである。また今を保障されない若者が未来の保障に向かって年金を収めようとする道理がない。このような国の長が,国民や若者に向かって「愛国心」を持てというのは虫の良すぎる話。”おれを愛せ”というなら、その前に果たして自分の顔が愛されるにふさわしい顔をしているのかどうか、その人相をとくと鏡で見なければ成らない。

'06.1.23.朝日新聞・写真家・作家・藤原新也様

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