散歩道<812>
散歩道・面白い話・大集合(348)・1597
思潮21・主体的日本とは何か(3)・独自の情報基盤で多様な政策選択を (1)〜(3)続く
1597、 改めてイラク戦争に向かった局面で、この戦争を指示した日本メディアの論説と知識人の発言を読み返し、その見解を支えた情報基盤の劣弱さと時代の空気に迎合するだけの世界観の浅さに慄然とさせられた。真摯な省察がなければ、こうした失敗は繰り返されるだろう。貧困な判断が繰り返される事態の本質を突き詰めると、戦後60年を経てもなお、米国への過剰依存と過剰期待の中で思考停止の中にある日本という姿が見えてくる。「アメリカを通じてしか世界を見ない」という枠組みに埋没し、主体性を欠く日本に対してアジアの心ある人々は失望を隠さない。多少の利害得失があっても21世紀のアジアを束ね大きく方向付けしていく器の大きな指導者の姿が見えないからである。アジアが期待する日本は列強とくつわを並べて軍を海外に展開する存在でないはずだ。産業力と文化力によって敬愛される国を目指した戦後日本の実勢を簡単に放棄してはならない。主体的な政策を展開するには基盤条件が求められる。何よりも世界潮流を的確に認識する情報基盤が必要となる。米国が開示する情報だけを頼りに進路を模索する限り、選択技は限られる。国家が国際社会で発言するためには、情報の収集・分析のための独自のシステム構築が求められる。 特に日本に不可欠なのが、アジア太平洋地域に関する情報機関、シンクタンクである。欧米諸国も、それぞれ多様で個性的な国際情報に関するシンクタンクを育て維持している。例えばフランスは1974年第1次石油危機直後に構想を発表し、アラブ諸国22ヵ国の参加を得て、13年間かけて、パリに「アラブ世界研究所」を創設、中東・アラブの民族・文化から政治経済、石油に係る情報の磁場を形成してきた。フランスが中東外国において驚くような自己主張をする背景に、深く中東情勢を把握している自信が存在することに気付く。日本は、生存に係るアジア太平洋の地域情報についてさえ、米国が開示する情報以上のものを確保する姿勢を確立していないといえる。
アジア太平洋の地域のエネルギ−環境、食料,金融連携などのテーマに関し、この地域の若い専門家を集積し、共同研究する基点を主導的に構築すること、それによって重層的で多様な政策選択が可能なわけで、広く確かな情報基盤がなければ、固定観念や偏見に支配され続けることになる。日本の21世紀の国際関係を豊かな政策論の中で議論するためにも、産官学の協働に加え多様な個人の参加。支援する形の知的セクターの創造・強化が求められる。主体的思考を取り戻し、自らの枠を打ち破る第一歩である。2006年1月 '06.1.朝日新聞・(財)日本総合研究所理事長・寺島実郎氏
散歩道<370>寺島実郎・時代の深層底流を読む(1)〜(2)、<652>脱9・11への転換(1)〜(2)、