散歩道<6905>
文芸時評・「文学」の働き(1)・橋をかける 世界と私に
まるで自分の為に、自分だけ向けて書かれたかのように思える作品に出会った経験あるはずだ。その時、まだ言葉にならず胸にあった喜びや悲しみや不安が、「そうだ、それだ」とはっきり像を結ぶ。そして、そのことで世界と私の関係に確実に変化が生じる。息がしやすくなる。
文学がもたらすこの「不思議」を何と表現したらいいのか。そう考えていた時に、ある本を読んだ。そしてタイトルを見つめながら「そうだ、それだ」と納得した。
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橋をかける(文春文庫)。これは、美智子上皇后であった1998年に、国際児童図書評議会に寄せた基調講演の原稿を収録したものだ。
そこで皇后は、生きるとは、自分と周囲との間に、自分と自分自身との間に絶えず「橋をかける」ことだという。この橋が失われるとき、「人は孤立し、平和を失います」。 そして子供時代の読書を振り返りつつ、いくつかの本が「自分を楽しませ、励まし、個々の問題を解かないまでも、自分を歩き続けさせてくれた」と回想する。読書は彼女にとって、「外に、内に、橋をかけ、自分の世界を少しづつ広げ」るための「大きな助け」となったという。<検>教養、<検>面白い文章、
'19.5.29.朝日新聞・作家・小野 正嗣氏
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