散歩道<5928>

                                         人が語り ポピリズムに抗して(2)

 
 こうしたデータが示す現実にメディアは気づかなかったのでしょうか。私の同僚、金成隆一記者が今年2月に出版した「ルポ トランプ王国」(岩波新書)は、大統領選のさなか日本の記者が多くのトランプ支持者に取材した貴重な記録です。ラストベルト(さびついた工業地帯)と呼ばれる五大湖周辺で取材に応じてくれた労働者の労働者は150人に上ります。大半の人は記者の取材を受けたことはなく、「私の話を聞いてくれるのか」と感謝されたそうです。政治やメディアに自分たちの声など届かないとあきらめていた人達の欝積
(うつせき)した思い。それが奇怪なトランプ政権を生んだと言えます。
 トランプ氏は虚偽と敵意をまき散らしながら大衆の負の感情を刺激として支持を集めています。その手法は「ポピリズム」と呼ばれしばしば非難されます。しかし、民主主義を支えるもっとも基本的な仕組みが選挙であることに変わりはありません。だからこそ、メディアはしばしばその結果に戸惑い、たちすくみます。かって大阪府・市のリーダーとして橋下徹氏が登場した際、メディアが結果的に無力だったのも民意のありかをつかみかねたからです。

 ただ、民意はしばしばもてあそばれることも忘れてはなりません。1930年代のナチスの台頭を持ち出すまでもなく、民主主義は民主的な制度に則って崩壊し、人々の自由は奪われます。政治をただの見世物にしないためにも、朝日新聞は共感を大切にした報道を心がけています。
'17.8.  Asahi Life Kyoto 朝日新聞京都総局長・久我 誠氏 

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