散歩道<5915>                       636から

                        夕陽妄語・選挙の後に(1)

 衆議院選挙は、自民党の圧倒的勝利に終わった。制度上は、小選挙区制が大政党に有利なことは言うまでもない。自民党の票は減っても議席はかわらない。社民党の票は増しても議席は増えない。首相を中心とする自民・公明の執行部が巧妙に立ち回ったということもあるに違いない。そういうことは全て与野党指導者側の事情であって、自民党大勝利の理由には被指導者側、すなわち日本国民一人一人の政治的意見の反映もあるはずである。国民はなぜ自民党を支持したのか私が想像してみよう。第1、国民の大多数にとって現状維持がのぞましい。失業率が高くなっても、失業者より数の多い就業者はそう考えるだろう。勿論職があっても、将来の不安、福祉の後退、老人の世話、子供の不登校その他いろいろ、暮らしの苦労は絶えないのではあるが、とに角まあ、衣食住は足りうる、という現状の大枠は変えたくない。誰がそれを保障してくれるのか。自民党と官僚機構。たとえ勇猛果敢に小泉首相が3日に1度「改革」を唱えるにしても、根本的にはなにも変えないだろうという大衆の信頼感が自民党にはあった。第2、しかし何十年経っても金権政治や代議士の世襲制が続いているのは退屈な話である。会社から帰ってTVを眺める勤め人男女はもう少し、華々しく、もう少し劇的な見世物を求めるだろう。すなわちそこに改革願望があらわれざるをえない。どういう内容の改革か「適切な内容だ」いつ改革するのか。「適切な時期にする」というような哲学問答を通して「改革」願望がこの日本の空を翔ける。第1の現状願望と,第2の改革願望とは矛盾する。その矛盾を弁証法的止揚に首相と自民党は成功し、民主党は失敗した。選挙の経過と結果はそのことを鮮やかに示しているのだろう。政府与党側の成功、ほとんど輝かしい成功は、まず衆議院を解散して、争点を「郵政改革」に絞ったことである。この場合の改革は民営化を意味するが、多くの有権者=国民はその功罪を具体的に知らず、しかし郵政がどう再組織されても自らの日常生活には大きな影響がないだろうと、考えたに違いない。これは見世物として十分に大衆の改革願望に答えると同時に、現状維持願望をも満足させる。  05.9.21.朝日新聞・     '17.8.8.

評論家・加藤周一様


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