散歩道<5839> 629から移動
9.11後のテロと世界(3)・ムスリム(イスラム教徒)の不満目むけよ
米主導の対テロ戦争の舞台になったイラクは今、新憲法の草案ができ、新しい国ずくりの過程にある。だが、自治権や天然資源の配分をめぐって宗派・民族対立も先鋭化。フセイン政権時代に権力を握っていたスンニ派が不満を強め、シーア派との間でテロが繰り返されている。14日には車爆弾で100人を越す死者が出るなど連日混乱が続いている。加えてイラクは、米国が「国際テロリスト」と名指しするザルカウイ容疑者ら近隣国出身者も混じったイスラム過激派の活動舞台にもなっている。イラクの内外で、テロは増殖するばかりだ。こうした情勢を伝えるアラブ・イスラム世界のメディア事情は大きく様変わりした。かって情報が伝わる範囲は限定的だったが、今では対テロ戦争の生々しい映像が衛星放送やインターネットを通じて瞬時に流されるようになった。それは1方で、米国やその同盟国のイスラム世界への軍事介入を強く非難するイスラム過激派の主張に求心力をもたせ、ムスリム(イスラム教徒)の連帯感を強めることにもつながっている。9・11に続くアフガニスタン戦争、イラク戦争は、米国の軍事行動に同調した国々に対する反発も招いた。私は昨秋、ヨルダンに行った際、米英についで豪州が嫌いだと言う声に数多く接した。豪州はアフガン戦争にもイラク戦争にも軍隊を派遣したが、バリ島のナイトクラブが爆発された事件で犠牲者になった200人あまりのうち、88人が豪州人だった。スペインや英国でも大規模のテロ事件が相次いで起きた。
対テロ戦争後の世界は安全になったというブッシュ政権の主張とは裏腹に、過激派のテロは地域的に拡散、発生数も、増加しつつあるのが実態だ。ブッシュ政権はテロを武力で鎮圧する姿勢だが、それがかえってムスリムの反米欧感情をあおっている。テロを抑制するには、その台頭する背景の要因にも目を向けなければならない。アラブ・イスラム世界では人口増加が著しい。多くがこの30年余で倍増し、あらかたが25歳未満が全人口の半数を超える。だが、増え続ける青年層に対して十分に職を供給することが出来ない。生活環境は悪化するばかりだし、経済のグロバル化が貧困を一段と深刻にしている。ムスリムたちの不満は、イスラム世界を侵略していると彼らが考える米国などへの反発に転化されていく構造がある。これらの問題に9・11後の国際社会がどれほどの注意を払い、改善の努力をしてきただろうか。対テロ戦争後、日本は自衛隊をインド洋やイラクに派遣した。だが、イスラムの地に「外国の軍隊」が足を踏み入れたことには少なからぬ反発を招いているのではないか。アフガニスタン戦争当時から、アルカイダは日本をテロの標的として名指ししている。現状では日本もテロ攻撃の可能性から免れ得ない。対テロ戦争はテロ抑制には逆効果だった。国際社会はイスラム過激派テロの背景にある根本要因を真剣に探り、改善に迅速に取り組まなくてはならない。でなければ、世界は増殖するテロの脅威にさらされ続けることになろう。2005年9月22日 '05.9.17、朝日新聞、静岡県立大助教授・宮田律氏、
関連記事、散歩道<153>アフガニスタンの運動会、<520>プロ野球交流時代・テログループも使う携帯電話