散歩道<5811>                 619から移動

             衆議院選の結果を見て(下)(2)・佐伯啓思壮大で皮肉な「茶晩劇」有効な政策肢示さず        

  一つの考えは、郵貯資金の市場化によって資金をハイリスク、ハイリターンのグローバルな金融市場に放出するというものである。言い換えれば、アメリカ主導のグローバル市場競争への適応を説くもので、だからこそアメリカは郵政民営化を強く要求しているのである。もう一つの考え方は、郵便貯金をある程度の公的利用のもとにおき、市場競争の中では実現困難な将来の社会的基盤の整備に使う、というものである。問題があるとすればそれは「官」へはいってきた金の「出口」であってその「入り口」ではない、ということである。少なくともこの二つの考え方はありえるし、選択肢(し)としてなりたちうる。ところが、与党も野党も、「官から民への流れは定着した」と即断し、論点は、地方の郵便局の存否などという方向へ向いてしまったのである。自民党の勝利によって郵政民営化の方向はもはや動かしがたくなりつつある。だがそのことは大きな危険を伴う。今日、民へ流れた資金が、そのまま長期的観点からして望ましい利用に付されるという理由はどこにもない。すでに市場で過剰化している資金はグローバルな金融市場を通じて海外に流れ、また国内で局地的な不動産売買や高層ビル建設に向けられる可能性も高い。こうしたことが長期的な国民生活に有用とは思われないのである。そもそも、つい先ごろまでは、80年代のバブルと90年代の不良債権の元凶は、民間銀行による無節操なリスクを考慮しない融資や、不動産会社等による無鉄砲な海外投資にあったなどと言われていたのではないか。とすれば、来るべき、人口減少、低成長社会へ向けた、新たな社会基盤の整備に公的資金を利用するという選択肢は十分考えられるのであり、これは幾分かは、反グローバリズム、反市場主義の主張を伴うものである。「改革」が頓挫すれば、海外からの資金が引き上げられ、市場の反感を買う、という「改革論」の言い分こそが、グローバル市場主義に飲み込まれていると言うほかない。政策選択は「改革」の方法やスピードではなくグローバル市場に「国益」を委ねることの是非を問う点にこそあったし、そのことはこの選挙で決着がついたわけではない.2005年9月14日

'05.9.13.朝日新聞、京都大教授(社会経済学)佐伯啓思氏
関連記事:散歩道<195>公共工事・地震に耐える住宅

                                30