散歩道<5214> 

      
                      インタビユー・オピニオン・音楽にできること・(2)                      (1)〜(5)続く 
                           
ひとつの音のため 他者の言葉を聞く 調和を築く力に         
     

 互いに譲らぬものに対し、芸術の力はどこまで及ぶのか。音楽家のダニエル・バレンボイム氏は、問題提起を続ける。ブエノスアイレス生まれのロシア系ユダヤ人。イスラエルに移住し、識者、ピアニストとして世界各地に足場を築く。故郷は音楽のみと語るコスモポリタンは、音楽を通じ、世界に何を語りかけたいのか。

・・・パレスチナ擁護の姿勢を貫いた思想家の故サイード氏と、イスラエルとアラブの若者たちを集めてオーケストラをつくりましたね。
  「今となっては美しい伝説のように語られていますが、私たちは最初から大それた志しを掲げていたわけではありません。イスラエルとアラブの若手演奏家を集めて独ワイマール市が開いたセミナーに招かれた頃、アラブ諸国だけでも200人以上のが応募がきてしまったのです」
  「政治的、歴史的な理由で分かたれる前に、音楽を通じて互いに人間として出会い、認め合うことが出来るのだと、私自身が教えられました。あるときバイオリンのセクションで、アラブの若者とイスラエルの若者が、ある曲の中のひとつの音をどう響かせるべきか、そのためにどう弓を動かせばいいのか、真剣に探求している光景を見ました。そこにはイラエルもアラブもない、ただの2人の人間がいるだけでした」
・・・このプロジェクトに、ドイツ人のゲーテが東洋への関心から編んだ「西東詩集」の名をつけたのは、異文化が行き交う場にこそ真の創造がある、との理念からですか。
  「それだけではありません。私は1990年代からベルリン国立歌劇場の音楽総監督を務めていますが、もし仮にドイツが己の戦争責任に真剣に向き合っていなければ、かの地のために働くことなど全く考えられなかった。ホローコーストを戒める碑を建立するだけでは十分でない。大切なのは現在であり、未来への希望を育てること。だから、ドイツのこの地を新しい交流の礎にすることに、大きな意味を感じたのです」

'13.1.8.朝日新聞指揮者・ピアニスト・ダニエル・バレンボイムさん

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