散歩道<5195>
仕事力・人生を懸けて追いかける(3) (1)〜(4)続く
忘れ去られてはならない
存在感を示す努力
演奏家は、その人らしさをどう表現できるか、それを生涯にわたって問われる仕事です。作曲家が書いた楽譜は一つ。長い時を隔てて向かい合いながら、現代のこの私が弾く意味を探すわけです。それは、つまり自分を探す事とも重なります。特に、日本人であり、女性であることが、どんなふうに反映されるのか。これが何より大変であり、だからこそ挑む価値があることともいえるでしょう。
音楽家が活躍する世界は大きくありません。例えば、米国で行った演奏会の評判が翌日には英国に伝わっていて「諏訪内はこうだった」と関係者の耳に入っています。活動のラインから外れてしまうとその評価が届かないわけですから、演奏家の現役として忘れ去られていく。だから病気になった方の代役も積極的に引きうけ、演奏活動の密度を保つ努力を欠かせません。
プロとしての活動実績が十分にあっても、参加したいコンサートがあればオーディションが待っており、指揮者はこう言います。「あなたの名前は知っているけれど、演奏を聴いてみてから」と。これは厳しいようですが、仕事に対して当然の考え方だと思います。その人が、求めるものを持っているかどうか。今確認するというのですから。
自分は、一緒に仕事をしたいと評価してもらえるのかどうか。もし演奏会で失敗したら敗者復活戦はほとんどありません。張り詰めて最前線にいることが、仕事を続けるということだと思います。
孤独を引き受けるタフさを育てよ
自分の仕事での評価をスポーツのようにチームで分け合うことができない。会社のように組織で受け止める緩和策がない。全ては直接私にやってきます。ではどうしたらいいのか。苦しい経験で得た結論から言えば、できる限りの準備をするということですね。
ヨーロッパなどでオーケストラとツアーでは、ソリストは、団体として行動するオーケストラ団員とはほとんどの場合、別行動となります。ソリストの孤独はタフでなければ続けられません。では、その強い精神力をどう手に入れられるかと言えば、私はこの仕事を続けて今日に至っているんだという自信しかないと思います。
どのような仕事も急に身につくようなものではありません。段階状に一歩一歩上がりながらここまで来たプロセスは自分が知っているわけですから、もし旨くいかなくても、ここまで戻れば大丈夫という土台がある。それを信じることです。積み重ねてきた自分の時間が、仕事力の全てだということも言えますね。
外からの評価に侵食されない。でも、求められる水準を維持し、忘れられないように実力を磨いておく。強がっているけれど、私もくじけそうになってしまうことがあります。それでも私にはこれしかない、そう思うことが支えです。
'13.3.10〜 3.31.朝日新聞・バイオニスト・諏訪内 晶子
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