散歩道<5120>
                             仕事力・本気になりませんか(2)                      (1)〜(4)続く
                               部下のヒートに火をつける   

ショックを受けないと本気になれない
 貧困にあえぐ街の少女が私の腕の中で域を引き取ったショックは、仕事とは何かを自分に激しく問う事件でした。大学の教職を捨て、世界銀行に就職してからも、貧しさにあえぐ人々が本当は何を求めているのか、その痛みを自分の事として知らなければと思って努力していたつもりでした。
 
それでも、まだまだ頭でっかちだったのです。47歳で南アジアの営業局長に就任して間もなく、パキスタンの貧しい村に2週間ほどホームステイで入り、ヒマラヤの急斜面にへばりつくような小屋についた途端、水道も電気もないこんな場所に滞在したくないと嫌悪する私がいました。貧困を解消するという使命感を持っているはずなのに、貧しい暮らしを無意識に見下している。自分の中に「鬼」がいると思いました。
 そんな私に読み書きもできないホストマザーは実に優しかった。毎日6時間もかけて水くみに行く重労働に耐えながら、子どもにだけは教育を受けさせたいと涙を流していました。この体験で私は腹が据わったのだと思います。生身の人間として頭とハートがつながり、言動一致、生半可でない覚悟ができ、本気な部下としか働けないと気づいたのです。
 高等教育を受けた人間というのは。いろいろと本気から逃れる手段を与えられています。そうやって自分が安全な位置を獲得する、そうでない他者が目に入らなくなる。間違った道を歩いていても、気づかないほど実は鈍くなっている。上に立つ人はそれを揺さぶらなくてはならない。


知っているつもりをひっくり返そう 
  世界銀行で働く人間は、恵まれた環境で育ち、最高の教育を受けたエリートたちです。頭もいいし、志も低くありません。それでも、私が衝撃的な体験を語っても破れないような、硬い殻の中にいる人々でした。恐らく日本にも似たような人が多いでしょう。論理は学んでるのにそれを生かしきる行動ができないのです。
 経営者は、まず自分のハートに火をつけて、組織の火つけ役になって欲しい。
 自分自身の体験、失敗、犯してしまった間違い、喜び、感動したことをあからさまに話し、それは何を目指しているからなのか、夢を語り、インスピレーションを与えて下さい。私の場合はショック療法として、部下を次々貧村へホームステイに送り込みました。貧困解消を仕事としていながら、貧困の現実を知らずに何ができるものかと言って。
 私より長く働いている人でも、現地で数日暮らすだけでも、度肝を抜かれて帰ってきました。命にさえ関わるような体験ですから、頭で知っているだけでは駄目なんだと分かり、行動が変わります。とにかく上にたつ人は、本気の火をつける役になって欲しい。何より、本気で仕事をすることは、人間の喜びでもあるのです。
関連記事:散歩道<検>仕事力、<検>女性、<検>外国、<検>政治、

'12.12.2〜13.1.6.朝日新聞・西水美恵子さん