散歩道<5045>
仕事力・自分は何を幸せと考えるか(3) (1)〜(4)続く
分からないから食い下がろう
以心伝心を期待する大人からどう学ぶか
日本の社会で人を育てる場合に「学ぶんじゃなくて盗め」という上司は少なくないし、言葉にしなくても、飲み込みの早い部下を認めるという傾向があります。今は過度期とは思いますが、「1を聞いたらせめて1・5か2ぐらいまでは分かってくれよ」、次のレベルの理解を期待していますね。
でもそれじゃ分からないと若いあなたは当然戸惑うはずです。なぜ、かって大人たちの成長期にはそんなことが通用したのか。それは仕事の後のコミュニケーションがあったから。飲みに連れて行かれるなかで、1から2段階への裏話を先輩*1などから補完してもらうことができ、何とかみんながそろって次のステップへ辿りつけたのです。
今は上司と部下は、気軽に飲にに行かない場合も多いので、1から2のレベルに行く中間のフォローがない。理解できないことを「何でですか?」と会社で聞くと「自分で考えろ」と言われる。演劇の世界でもそういうことが勿論ある。だから僕は、俳優たちに質問の仕方を伝授しています。例えば「このセリフはどういう意味ですか?」と聞くと「自分で考えろ」となるから、「このセリフはこんな意味にも取れるし、また、こちらの意味とも取れる。どちらが正解なのでしょう?」というように、自分が考えたことを先に示してから質問しなさと。
これはアルバイトでもそうだし、会社でそれなりの仕事をしている人も同じです。もう 以心伝心は無理な時代ですが、まだそれを期待している大人には、賢く食い下がる知恵を使ってください。
英国で体験したステップ・バイ・ステップ
僕が留学したロンドンの演劇学校では、1を教えたら次は1・1を教える、そして1・2に映るというように、どのくらい授業をステップ・バイ・ステップできめ細かく、落ちこぼれなく教えるかを競っていました。1から2へジャンプしたとすれば最低の学校だといわれてしまう。ヨーロッパの国はいろいろな国が隣接しているから、いい意味で人間の理解に期待していないのです。これを教えたら次を気づく人間もいれば気づかない人間もいるわけだから、当然きちんと次の段階も教えましょうと考えるのでね。
面白いことがありました。、イギリス人の演出家が、スペイン人に「そこはもう少し情熱的に」と指示したら、彼は気が狂ったように情熱的な演技を始めたのです。イギリス人はどちらか言うとシャイだから、それは情熱的じゃなくて錯乱している演技に見えた。演出家は国民性の違いに気づいて言葉を変えましたが、それくらい分かり合えないことは当たり前なんです。日本も時代格差や価値の格差が大きくなっていると思います。
'12.11.4.〜25.朝日新聞・作家・小説家・鴻上 尚史(こうかみしょうじ)さん