散歩道<4700>

                           経済気象台(700)こんな医療に誰がした

 TPPの問題で、農業と並んで抵抗が強かった分野が医療だ。これは、この業界の既得権益がそれだけ大きいものであることを示している。実は日本の医療システムは、二つの構造的な課題から腐朽が進みつつある。このままでは早晩、危殆に瀕することになろう。
 一つは大学医学部の定員の約4割を占めている市立大学の入学金が高すぎることだ。これでは、いかに優秀な人材といえどもサラリーマンの子弟では進学できない。勢い、高所得の開業医の子弟が中心となり、こうした業界の人材はやがて劣化していく。
 鞄、看板、地盤という「参入障壁」がある政治家に見られる人材劣化と似ている。とばっちりを受けるのは国民である。私立大に合格した生徒の親の所得が低い場合、国が奨学金を支給することで問題が解決するのではないか。
 二つ目は、健康保険という国家独占の「保険会社」の存在だ。この保険会社は、契約者のニーズをないがしろにして、政治力の強い医師側の利害に敏感になりがちである。保険契約の中身についても、医師のスキルを無視した価格体系になっている。
 すなわち、新米と神の手を持つドクターの手術が同一料金で、スキルは評価されない。これではスキルを磨き、診察・治療レベルを引き上げようとするインセンティブは働きにくい。我々が受ける医療サービスの水準が上昇しにくい仕組みとなっている。
 国家独占の保険会社では、患者・保険会社・医師という三者間の相互チェック機能が働かない。ここらで健康保険のあり方を再検討し、崩れかかったわが国の医療システムを再構築しないと、取り返しがつかないことになろう。

12.1.6. 朝日新聞

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