散歩道<4691>  

                              経済気象台(691)・もがく米国と再生への兆し

 9月から10月にかけて米国の各地を訪ねた。シリコンバレーでは企業家らと技術革新を生む土壌について議論し、カンザスシティでは起業を支援する著名な財団で、現在の起業動向を聞いた。首都ワシントンでは、マクロ政策の効果について意見を交じわした。全体的な印象は、次の3点に集約できる。
 第一は、米国がもがいているということだ。住宅不況や雇用の低迷、増大する公的債務、深刻な政治対立などが複雑に絡みあう中で、日本のような中期停滞に陥りつつあるという見方が広がっていた。そこから抜け出すために自分たちは何をすればいいのか、みながそれぞれの立場で真剣に悩んでいた。
 第二は、米国全土が悲観一色に染まっているわけではないことだ。ワシントンでは「もはや打つ手なし」という諦観
(ていかん)が強い一方で、シリコンバレーでは、豊富な資金に支えられて、新しい技術やアイデア、それらを具体化するビジネスが次々に生まれていた。
 第三は、もがき続ける中で再生への端緒をつかみかけているのでは、ということだ。今なお世界最大規模の製造業では、ITの活用やコスト削減、ドル安などを背景に、海外生産拠点を米国に戻す動きがみられるという。新世代の情報端末やサービスは、それに関わる無数の企業や新しいビジネスモデルを生み出しつつある。
 米国が、危機の後遺症を癒すまでになお時間を要することは疑いない。その間、成長率は低く止まり、不安定さも消えないだろう。それほど、危機の傷痕は大きかった。
 しかし今、水面下で生じている変化が、やがて米国経済を再生させる原動力になると気付くことも必要なのではないか。

'11.10.29. 朝日新聞     

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