散歩道<4665>
仕事力・「非日常を捉えて生きる」(3) (1)〜(4)続く
「捨て身の力」を忘れない
平穏を壊しても未知に挑む
人生も仕事も何げなく過ごしていると、平穏に終わってしまうもので、何十年という年月もあっという間にさらわれていきます。でも、いつもの日常とは違う何かがふっと立ち表れることは誰にも必ずあるのではないでしょうか。
私にはそれが多くありました。思いがけない人との出会いや、事件との遭遇など。見逃してしまえばそれまでの人生に何の影響もないはずですが、頼まれもしないのにそれを一つひとつキャッチして懸命にエネルギーを使ってきたのですね(笑い)。映画の世界に入ったことも、結婚のためにフランスへ渡る決心をしたことも、「差別」の存在を身をもって知り、その歴史的背景に興味を持ったことや、「聖戦」の名のもとに斃(たお)されたイランの元将軍のテロを目のあたりにして、イスラム世界に踏み込んで行き、ルポルタージュエッセーを書き上げたことも、みんな非日常を捉えてしまった私なりの行き方なのです。
順調に続いている日常を捨て、不可解に思うその非日常に惹かれて、やみくもに飛び込むと、人生がガタガタに壊れることもあるでしょう。私はイスラエルでは猛暑の為肌を出したスタイルでルポ撮影していて、ユダヤ正教過激派100人に襲撃され身の縮む思いもしたし、イランでは殉死した少年兵の墓地を訪れた時、カメラを持っていたことで、「異教徒が聖戦を冒涜している!」と通告されて革命防衛隊に手錠をかけられそうになったこともあります(笑)。それは恐ろしかったわ。
フランスには「卵を割らないとオムレツは作れない」という諺があります。卵は割りたくないけれどオムレツは食べたいというのはダメ。何か新しいことをしたかったら、持っているものを壊さなければならないのです。私は手持ちの卵をほとんど壊してしまいました。つくったオムレツはおいしくはなかった(笑)。でもおなかにずっしりと重い味わい深いものでした。
'11.11.9〜'11.10.30.朝日新聞 女優・俳優・岸 恵子さん
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