散歩道<4648>
       
                          視点・ユーロ危機・「欧州合衆国」が必要だ (2)                 (1)〜(4)続く

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 欧州危機は、30年続いた新自由主義が原因ではない。投機による資産バブル崩壊やマーストリヒト基準違反、あるいは膨れ上がる債務や欲深い銀行のせいでもない。重要なことは、起きたことではなく、「起きなかったこと」にある。つまり、共通の欧州政府をつくらなかったことである。
 欧州連合(EU)は90年代初頭に通貨統合を決めた。共通通貨と中央銀行を持つことは決めたものの、中央政府をつくるアイデアは指示されなかった。そのため、通貨統合を進めるなかで政府創設は先送りされ、結果として、危機の際に安定を保たせる強固な基盤を欠いたままとなった。通貨主権の統合は共通の目的になったが、その行使に必要な権限は各国政府にとどまったのである。
 当時、財政赤字や債務残高、インフレに上限を課した諸規定で十分だろうと考えられた。だが、それは幻想だった。政治力による支えが必要だったのであり、支えがなければ諸規定は現実という試練に耐えられないのだ。
 主権国家の連合体であるユーロ圏は、その試練に負けそうである。危機に断固として対応できずに、通貨にとって最も重要な資産である信頼を、ユーロは失いつつある。現行の連合体から連邦制に進化を遂げ、欧州の政治力が一つにまとまなければ、ユーロ圏、ひいてはEU全体が崩壊してしまうだろう。EUを国家として再構築するための政治的、経済的、財政的なコストは巨額なものになる。EUの崩壊を世界中が恐れているのももっともなことだ。

'11.11.12.朝日新聞・ドイツ元外相兼副首相・ヨシュカ・フイッシャー


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