散歩道<4610>
終わりと始まり・遠い人々と身近な問題
温度差を理由とせずに(3)
(1)〜(3)続く
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この7月、南スーダン共和国は独立した。北と南には油田を巡る争いがあり、独立までの道は困難だった。この安定はまずもって喜ばしいことだ。あのジュバは今どんな風なのか、主な交通はこれからもナイル河を遡行する船に頼るのか、気になっている。
タイは遠いし、南スーダンはもっと遠い。ぼくはたまたまどちらの地も知っていたから関心がつながった。
先日、京都でタクシーに乗っていて、運転手氏とはほとんど口論になった。いわゆるタクシー会話で景気のことを話しているちに先方が「日本中で今いちばん元気なのは福島ですよ」と言った。「仕事がないのに金が上から降ってくる。パチンコやと居酒屋が満員御礼」と言うのを聞いて、むきになって反論するうちに、なんとも大人気ないことを言っている自分に気づいた。
今年の3月11日に起こったことは「東日本大震災」と呼ばれる。できるかぎり広い地域名を冠しての「東日本」だ。「西日本」からは遠いし、いわゆる温度差があることはよく分かっている.日本中どこも景気が悪いことは誰も否定できない。
人が持ちえる関心の総量には限界がある。だから、すべての日本人、あるいは世界のすべての人に3・11に始まる地震と津波と原発事故の結果に強い関心を求めるわけにはいかない。
そうではないのだ。あの日以来これまで「東日本」で進行してきたことは未来の何かにつながる種なのだ。目を背けては被災者に申しわけないなどという消極的な理由からではなく、本当にあれは日本が変わる契機なのだ。だから遠い人も真摯(しんし)に見ていてほしい。
'11.11.2.朝日新聞・作家・*1池澤 夏樹氏
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