散歩道<4595>
 
                          オピニオン・あすを探る・外交
                               専門知を結ぶシステムを
(2)                     (1)〜(3)続く

 筆者も含めて中東研究者は、しばしば「なぜ戦争/テロ/政変が予想できなかったのか」との非難にさらされる。世間を騒がせる地域を研究対象とする地域研究者は、カントリーリスクを調査するアナリストと同一視され、特に中東研究者は「戦争予想屋」や「テロ予言者」だと思われているようだ。9・11も、「アラブの春」も、発生を読めなかった「役立たず」として、叱られた。
 研究者が物知らずなわけではない。9.11統治、米国に比べて日本の研究者の方が米国の対中東政策の問題点をちゃんと把握していた。「アラブの春」がおきた国々では、長年多くの日本人中東研究者が現地社会に張り付いて、深く観察してきた。
 では情報と知識があったのに何故、大事件の発生を想定できなかったのか。それは知の総合化の不在にある。「アラブの春」でいえば、政治体制を観察する者がムバラク政権の巧妙な政権維持手法に注目する一方で、社会運動の研究者は若者の新しい運動がこれまでと違う、と気づいていた。個別の分野では、研究者は正確に事態を把握していた。
 問題は、こうした異なる兆候を総合的にどう判断するかが、批評家か政策決定者に任されてきたことだ。だが政策決定者の分析は、政策ありきで情報を選別しがちなため、歪
(ゆが)む。
 研究者にも、専門分野を超えて総合的、学際的な分析を披露する人がいないわけではない。だがダビンチや平賀源内のように、専門と総合化と両方ができるマルチタレントな研究者は、そういない。逆に専門外に手を広げて分析の質を落としたり、政策に阿
(おもね)ったりする専門家は、たくさんいる。

'11.9.29.朝日新聞・東京外国語大学教授・酒井 啓子さん


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