散歩道<.4528>
終わりと始まり・「ツー・オブ・ライフ」を見る(1)
宇宙誌と霊の世界 (1)〜(3)
芸術には形式が要る。
普通の創作者は広く用いられている形式を頼って自分の作品を作る。
しかし中にはその形式の枠を踏み越えて新しいことを試みる。真の意味の創作者もいる。
テレンス・マリック監督の「ツー・オブ・ライフ」は形式の枠を壊す勇敢な新しい映画である。
ストーリーは何の仕掛けもない単純なもの。1950年代のテキサスの小さな町に若い夫婦がいる。暮らしは安定しており、二人の間には次々に三人の男の子が生まれる。長男が思春期を迎える頃まで、三人が育ってゆく姿が丁寧に描かれる。
始まってすぐのところに、二番目の子が十九歳で(おそらくはベトナム戦争で)亡くなったことが伝えられ、両親が悲嘆にくれるという場面がある。
しかしこの家族にはそれ以外にドラマティックなものはない。彼らは普通の家族の代表としてそこにいる。
家庭内に緊張があるとすれば、子供たちへの愛にあふれているのに厳格に育てなければならないと信じている父親(ブラッド・ピット)の矛盾をはらんだ振る舞いと、それに耐えて育ってゆく長男の心理だろうか。子供たちと夫との間の微妙な位置に立ってよく遊ぶ母親の野放図な愛が心地よい。
昨今のハデハデな娯楽作品に比べればまこと波乱の少ない展開だが、それを補うべく場面の一つ一つは緻密(ちみつ)に摂られている。とりわけ長男ジャックと次男R・Lの演技は素晴らしい。幼い俳優からこの表情を引き出した監督の演出力は尋常ではない。
その上で、この映画は二つの方向へ逸脱する。家にたとえれば、一見したところ平屋に見えて実は広い地下室と明るい屋根裏が隠れている。
'11.9.7.朝日新聞・作家・池澤 夏樹氏
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