散歩道<4520> 

                           美の季想・マスターピースと「名物」(3)              (1)〜(3)続く
                            
日本の傑作 根底に「観賞の美学」

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 これらさまざまな名称が、いずれも「名」という字を冠していることは、日本人の美意識について重要な示唆を与えてくれるように思われる。作品ばかりなく、例えば作者についても「名人」「名工」と呼び、また「名所」や「名山」のように、自然に関しても同様な言い方がなされる。人間の作ったものも自然の姿も、同じカテゴリーに属すると捉えられているといってよいだろう。
 「名所」は本来「名のあるところ」だが、地名を持った場所がすべて「名所」になるわけではない。「名所」には多くの人が訪れ、歌に詠み、絵に描くなどさまざまの思い出を残す。その先人たちの記憶の遺産が「名所」を「名所」たらしめるのである。
 広重晩年の名作「名所江戸百景」では、自然景に加えて、七夕祭りや両国の花火などの年中行事が大きな役割りを果たしている。年中行事もまた、繰り返されることで人々を過去の記憶と結びつけ、また参加をうながす。日本人の美意識の根底には、西欧の「創造の美学」に対して。「観賞の美学」ないしは「参加の美学」と呼ぶべきものが根強く横たわっているのである。

'11.9.1.朝日新聞・美術史家・美術評論家・高階 秀爾氏

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