散歩道<4487>
ザ・コラム・オピニオン・ 福島の意味
事故向き合い生きる覚悟(3) (1)〜(4)続く
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「スティグマ」という言葉がある。烙印(らくいん)や傷痕を意味する。鉛などによる土壌汚染が社会問題になった頃から不動産鑑定の世界で使われるようになった。
汚染された土地が嫌悪感を引き起こし地価を下げる側面を指す。風評と似ている。ただ、日本不動産研究所研究部の広田裕二次長によると、根拠のないうわさを風評というのに対し、スティグマは一定の根拠がある場合に使う。その定義に従えば、放射能がばらまかれたことによる打撃はステグマだ。しかもこれまでの土壌汚染とは比較にならないくらい深刻なそれだ。
「工場跡の汚染などは一つの敷地単位だけれど、原発事故が汚染するは延々と続く広大な土地。汚れた土壌を排除するにも持っていく場所もなさそうだ」と次長。それに事故の収束もいつまでかかるかわからない。事故原発に放射性物質が残っている限り、広範な周辺地域に対する不安を消すのは容易ではないだろう。
福島県宅地建物取引協会の安部(あんべ)宏氏会長は「避難区域から離れた福島市や郡山市でも不動産売買は殆ど動いていない。それどころか成約した物件のキャンセルが相次いでいる」と話す。「県全体が大変なことになっている、私たちの業界だけではない。農業も漁業も」。この懸念がもはや福島県だけのものでさえないことは、汚染牛肉問題などでも明らかだ。
多くの研究機関などが、津波の被害や、原発が止まった場合の電力の不足量などについて試算している。しかし、原発事故による経済的損失の全容については推計が殆ど見当たらない。打撃がどんな形でどこまで広がるのか、いつまで続くのか。だれにも分からないからだ。
'11.8.6.朝日新聞・オピニオン編集長 大野 博人氏
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