散歩道<4389>

                              組織の読み筋・下請けの罠            
                             「顧客思考」が視野を狭める(3)            (1)〜(3)続く

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 どれほど優れた技術を持っていても、目の前の顧客以外に自分の技術の応用先を知らないのであれば、利益を獲得するのは難しい。客を選べないのだから、こちらに交渉力はない。しかも顧客の無理難題を聞くことが正しい商売の道だと信じているのだから、顧客からの厳しい値引き要求に安易に屈するクセがついている。成熟期には数量が伸びないし、発注元の企業も他のアジア企業に競争で敗れつつあるのかもしれない。
 まるで沈んでいく船の機関室で船長からの無理難題に健気に対応しているようなものである。本当は社会全体から見ると貴重な技術力をもっている不可欠な企業であっても、このような状況では「相応の利益」を獲得することすら難しい。
 この話の悲しいところは、「顧客志向」と「「ものずくり」へのこだわりという、それ自体では決して間違っていない「定石」に忠実な人々が、その「定石」に無反省に忠実であるが故にこの苦境から抜けだせない、ということである。
 日本人が信じてきたこの美しい経営信条が、ときに人々を不幸の中に閉じ込め、脱出できなくする危険性を秘めている。経営に携わる人は、「定石」を学ぶと同時に、その「定石」を疑い、時には根本から考え直す思考力を養わなければならない。震災後のサプライチェーンの回復プロセスでは、技術力の有無とともに、経営者の思考力が試されることになる。

'11.5.20.朝日新聞・一橋大商学部長・沼上 幹さん

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