散歩道<4388>
組織の読み筋・下請けの罠 「顧客思考」が視野を狭める(2) (1)〜(3)続く
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自動車であれ、カメラや携帯電話や加工食品であれ、現行モデル用の部品・材料は少数の下請け企業に発注される。生産を集中した方がコストを下げられるからである。
しかし次期モデルの開発に際しても、同じ下請け企業が受注できるとは限らない。そこではまた厳しい競争入札を勝ち抜かないと取引を継続できない。新規モデルが開発されるたびに激しい競争を繰り返し、量産段階に入ってから単一企業に絞り込まれる、という状況であれば、部品・材料は不可欠でも、その会社は取り換え可能である。そうであればその会社が利益を上げられなくても何の不思議もない。高い価格をつければ、「次がない」からである。
しかし高い技術力をもつなど、本当は取替えが効かないほど重要な会社なのに利益がでないというケースも無いわけではない。利益を出せるポテンシァルをもつのに、それを実現しない会社があるからである。
なかでも一番悲しいのは、自分たちの力量を客観的に分析し、経営に反映していく広い視野と経営思考力が欠如している下請け企業の場合であろう。残念ながら下請け、というシステムにはそのような視野狭窄(きょうさく)・思考停止に陥らせる罠(わな)に仕掛けられているように思えてならない。
市場が右肩上がりで成長しているときは下請け企業、も幸せである。発注元からコストと品質の両面で厳しい要求が突きつけられても下請け企業、はそれに黙々と対応していくことで自ら技術力・コスト力を伸ばし、同時に市場成長による数量アップで増収増益を享受できた。この努力と成功のサイクルを成長期に繰り返していくことで、発注元を大切にして、その要求を黙々と受け入れ、「ものずくり」の力量を向上させていくことが成功につながるという強固な信念が形作られる。
しかし、発注元を神のように大切にする「顧客思考」と、自分自身の担当する「ものずくり」への集中という経営信条は、常に良い結果をもたらすわけではない。特に問題なのは、この経営信条が、今目の前に見えている顧客しか見ようとしない保守的な姿勢を強化し、自ら進んで新しい顧客や用途を開拓しようという意識を弱めてしまう可能性がある、ということである。
その気になって新しい市場を探索すれば、今まで蓄積してきた技術を他の業界へも転用でき、そこで重要な貢献ができるかもしれない。しかし、長い下請け経験を通じて、そのような発想は徐々に失われ、「顧客を大切にして、自分もものづくりに集中する」という姿勢がいつしか受け身の経営を創り出してしまう。
'11.5.20.朝日新聞・一橋大商学部長・沼上 幹さん
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