散歩道<3995>

                           経済気象台(625)・再生への挑戦                     

 日本は「英国病」に陥っているという。
 かっては強大経済力を築いた英国が、ゆき届いた社会保障の中で、国力を衰微させた1960〜70年代のことである。サッチャー首相は、国力に見合わない社会補償や労組の既得権益を剥ぎ取り国有化し、国民のポテンシャルを信じてその「再生をめざす大転換を果たした。その要は、当面のくらし向きの良さに執着し、国力の衰退をひとごとのように距離を置いて見る国民の意識転換にあった。
 その意味では今の日本にとって学ぶことが多い。世界経済が激しく変化する中で、地盤沈下と所得水準の低下が同時進行している。その現実を直視せず、ひとごとのようにニヒリズムにのまれているからである。
 しかし、ポテンシャルという意味では日本にも信ずるに足るものがある。日本の再生に大切なことはそのポテンシャルを押さえ込んでいる依存心や、リスクを取らない安全志向を転換し、試練の先にある新たな可能性に挑戦することだろう。政策も人間は「弱いもの」という前提ではなく、「試練によって成長するもの」ととらえ直す必要がある。
 ノーベル
*1化学賞の受賞が決った根岸英一教授も海外への留学生の激減を憂えている。若い世代の挑戦意欲の低下は、試練を子供に代わって引き受けるのが「親心」だという誤った発想による所も大きい。
 第2次大戦後、そういう「親心」が広がったことには理由もあるが、もうこの「甘え」
*2の構造は脱却する時である。試練の厳しさを和らげる方向ではなく、厳しい試練だからこそ引き出される願いや強い意志を信じてかかわる方向に、一人でも多くの人が転換する必要がある。

'10.11.5.朝日新聞

関連記事<検>経済気象台、<検>ほめる・教養・*1ノーベル賞、<178>-3・面白い話・*2西洋人には甘えという言葉はない、