散歩道<3951>

                          オピニオン・耕論・茶会旋風(1)                        (1)〜(2)続く
                          原点回帰求める「右翼バネ」  

 茶税への怒りで燃えた市民たちが先住民に変装し、夜陰に乗じ東インド会社船に乗り込み、茶箱を次々と海中に投棄する。米国人なら誰でも知る独立革命期の反英抗争の一コマ、ボストン茶会事件である。いま米国政治を揺るがせている「茶会」運動が依拠する歴史的ルーツをなす原イメージである。
 米国史では危機の時代に独立当初の国の原点に戻ろうとする、ある種の「国体明徴」的な右翼的バネが働くことがしばしばある。今回の茶会の動きも、この右翼バネの現れとみることができる。
 独立宣言は「生命、自由、幸福の追求」をうたっており、米国の自由主義の綱領的文書とみなされているが、当時の文脈では「幸福の追求」は個人の財産権を意味する。
 この原点を絶対視する今日の保守派にとっては、現在の連邦政府は不正な金融業界を甘やかし、納税者の負担を顧みず財政赤字を垂れ流しにしているとみえる。茶会運動の根本には、そんな政府の無駄を削り、「独立した個人」の自由を守れという原理的な自由観がある。
 しかし、そこで見落とされているのは、米国の自由が時代を経て変容し、拡大し鍛えられてきたという歴史である。オバマ大統領も独立宣言や憲法の伝統に言及するが、彼の自由観は茶会的な原理主義ではなく、建国期に不完全であった自由が、多くの戦いを経て、奴隷、女性、先住民、同性愛者など社会の各層や集団に拡大適用されてきた歴史的な過程を重視する。
 このようにオバマ対共和党右派の激しい党派的対立は、単に政策選択をめぐるものではなく、根底に原理主義的な自由主義と歴史主義的自由主義との根深いイデオロギー的な葛藤が潜んでいる。

'10.10.30.朝日新聞・東京大教授・古矢 旬さん

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