散歩道<3910>
社説・円高ドル安(2) (1)〜(2) 続く
もう「恐怖症」を超えよう
しかし、世界全体に対する円相場の変化を示す実質実効為替レートでみれば、過去25年の平均あたりだというデーターもある。景気回復のためには円安のほうが都合のいいことは確かだが、市場介入や日銀の金融緩和で相場をコントロールできる余地は小さい。
とすれば、今や円高に適応し、現状を新たな成長の土台とするような構想力と政策が、企業にも政府にも問われているのではあるまいか。
とくに多極化の時代には新たな発想が必要だ。アジアの新興国では今後5年で中間層が15億人に、富裕層も1億人増えると見込まれる。この勢いを日本の産業の活性化につなげるために、円高も活用したい。
実際そうした動きはすでに始まっている。1〜8月の海外企業に対するM&A(合併・買収)は312件と、過去の10年で最多のペースにある。
アジアでの事業拡大や新分野への進出など、海外戦略の強化のために円高を利用して企業買収に動いたところも少なくないに違いない。
これが現地生産に伴う国内産業の空洞化につながらないようにすべきだ。それには輸入コストの低下を武器に左右されない内需型産業を育てたい。
たとば、医療や介護、教育といった分野で、政府の新成長戦略に沿った規制緩和などをテコに産業の育成が真剣に追求されるべきだ。
新規算入で、経営の質を高め、職業教育で働き手の能力を引き上げる。そのために競争しやすい市場や制度を考えることも必要になる。
円高にたくましく順応していく新しい産業構造をデザインする「政府の企業家精神」が、今ほど求められている時はないといえよう。
'10.9.9.朝日新聞