散歩道<3838>

                            経済気象台(610)・事態を直視する    

 阪神淡路台地震*1の時、ボランティアで現場で奉仕した青年たしは本当に生き生きと輝いていた。心を揺さぶる惨状を目前にして、思いやりや生命への畏敬など、元々内にあった愛念が「事態」から呼び起こされた。私たちは無気力、無関心、無感動という若い世代への分かり方がいかに浅かったかを思い知った。
 今の日本がその可能性や長所を発揮できないのは、「事態」に対する受けとめ方がまだ等身大になっていないからだろう。しかし、日本の現状はどうにもならない状態に急速になりつつあるのではないか。それは時代の変化のテンポの速さに意識がついてゆかず、国全体として視野狭窄
(きょうさく)になっているためだろう。
 第2次大戦で焼け野原になったとき、かじ取りを誤らなかったのは、世界の貿易が急激に重化学工業化してゆく流れを見極め、日本が蓄えてきた技術や工業力のポテンシァルを正しく評価し、自信喪失の壁を越えて思い切った復興計画を進めた結果である。また、黒船来航の時は、欧米文明の水準に驚き、打ちひしがれる思いから立ち上がり、目を開きつつも日本人の培ってきた精神文化への自信を失わず、積極果敢にキャッチアップを計り、大変革を成就した。
 世界経済が地殻変動を起こし、低所得層の需要が市場化される中で所得の平準化が広く進むこと、地球環境の保全を両立させるための新しい価値観がこれまでの資本の論理を超えるものとして必要とされている。その事態を直視する中から、これまでの前提の思い切った組み替えも可能となる。それは人間のうちにある生命への畏敬や願いを大切に受けとめ育む真摯
(しんし)な心をもっと信じるところからの再出発だと思われる。

'10.9.4.朝日新聞

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