散歩道<3801>

                          ザ・コラム・市場システム(1)                       (1)〜(3)続く
                            「価値」として守る覚悟持て

 8月から大学に移り、心機一転して学問に取り組む機会を得たので、経済の仕組みの根本的なところを少し考えてみたい。
 世界的な経済危機によって、市場経済システムが不完全であることが如実に示された。市場経済を擁護する経済学者などは「市場経済(あるいは資本主義経済)は欠陥だらけだが、歴史上、人類が試みた他のすべての経済システムよりましだ」という。これはチャーチル元英首相が言った「民主主義は最悪の政治体制だ。これまでためされたすべての形態を別にすれば」という言葉から来ている。
 この議論には隠された主張がある。それは、「民主主義」とおなじく「市場経済システム」も、私たち一人一人がそのために献身すべき「価値」なのだ、ということである。
 市場経済システムが追求すべき「価値」(つまり「目的」)だというと、多くの読者は違和感を覚えるかもしれない。豊かさを得ることが経済の「目的」であり、市場経済システムはそのための「手段」だ、と考える思考になれているからだ。
 しかし、市場システムは「自由主義」という理念の現実社会における表現形態でもある。これは議会政治が「民主主義」の表現形態であるのと同様だ。議会政治がいかに腐敗しても、これを否定する人はいないだろう。議会政治の否定は民主主義の否定になるからだ。同じ意味で、市場システムは自由主義の理念と不可分である。
 さらに、日本の過去20年間の経済停滞は、つぎのような教訓を示していると思われる。市場システムを究極の理念として心底から信奉する覚悟がない社会は、市場経済を上手に運営することができず、そのため結局は「豊かさ」も失われていくのではないか、ということだ。

'10..8.25.朝日新聞・一橋大学教授・小林 慶一郎氏

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