散歩道<3785>
                         オピニオン歴史をつくれるか 民主党政権(6)                (1)〜(6)続く                          

 原点回帰必要な首相 部分連合で経験つめ
○ ○
  そのうえで、「第二幕」にふさわしい新しさも出していけばいい。興味深いのは、菅さんが政治理念として掲げる「最小不幸社会」である。米国の政治哲学者、ジョン・ロールズばりにこのビジョンに基づき、今後、たとえば貧困対策を「不幸の最小化」の観点から一つ一つ具体的に解決してはどうだろう。
 衆参の「ねじれ」は確かに難題だ。しかし個人的にはそれほど悪くはないと考えている。
 07年参院選で民主党が大勝し、「ねじれ」が生じた時、現官房長官の仙谷由人議員は「国会において、時間制限を設けず、できる限り言論を闘わせる熟議の民主主義ができないか」と提言した。あの時は実現しなかったが、今は双方の党に議会での熟議を求める雰囲気が生まれつつある感じがする。
 政党の連立のあり様を探る契機にもなる。望ましいのは、政策の距離が近い政党が政策協定を結んで連立する「最小限勝利内閣」だが、そこまで一気にいけなければ、当面は政策ごとの部分連合で経験を積むのも一策だ。最悪なのは大連立政権。政党が独自性を出せず、討議は姿を消し、政党システムはずたずたになるだろう。
 トランジションで大切なのは、ハーケンを固い岩盤に打ち込みながら進む山のぼりのごとく、あきらめず、根気強く取り組むことだ。落下してもまた、ハーケンを打ち込み、先を目指す。一歩後退、二歩前進の気構えでいかないと、到底、成し遂げられない。
 菅さんには、現状はトランジションだと認識し、理念とリアリズムがともに大切だと反芻
(はんすう)しつつ、じわじわと改革を進めることを期待したい。リアリズムにはまり過ぎて理念をなおざりにしたり、着地を急ぐあまり暴走したりはくれぐれもしないでほしい。
 市民派のリアリストとして、体制移行にかける執念が菅さんにはあると、私は信じている。

'10.8.10.朝日新聞・東京大名誉教授・篠原 一さん

関連記事:散歩道<検>政治、<検>社説、