散歩道<3771>               

                           オピニオン社会・あすを探る(2)               (1)〜(3)続く
                            多数派ゲーム もうやめよう 

 「自分の意見を持ちなさい」と言われても、私たちはつい世間の動きを気にして、自分が少数派にならないよう態度を決める性質を持つ。社会的に生きることは多数派当てのゲームなのだ、ということを精神分析の立場から明らかにしようとしたのは、フランスの精神医学者ジャック・ラカンだ。ところがいま、その”多数派当てゲーム”がしにくい状況になっている。そんな中では当然、「いつ自分が少数派に転じるか」と人々の不安も高まっていく。
 
だからこそ、そのたまる一方の不安やモヤモヤといった感情はどこかに突破口を求め、「これだ」といった対象が見つかると、なだれを打ってそこに集約されていくのだろう。その象徴がワールドカップの異様な盛り上がりや、菅内閣誕生時の支持率”V字回復”だった。そのときばかりは、誰もが安心して”サポーター”であることを公言できる。特定のタレントやスポーツ選手などが一斉にバッシングされるのも、この裏返しの現象といえよう。
 しかし、ここにも落とし穴がある。そもそも「全面肯定か全面否定か」といった極端な二者択一の態度しか取れないというのも、精神医学では「スプリッチング」という病理的な状態と考えられる。また、国民的熱狂あるいは攻撃といった爆発じたいも長くは続かない。それが一段落した後は、私たちはまた「多数派はどっち」といった他人の顔色をうかがうゲームに戻って、ストレスの多い日々を送ることになる。

'10.7.29.朝日新聞・立教大教授・精神科医・*1香山リカ
さん

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