散歩道<3757>
Opinion・ザ・コラム・デジタル化(3) (1)〜(3)続く
スピードと便利さのわな
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便利で無料。個人が多様な意見を発信すれば、「衆知」が瞬時に形成され、ウェブ上に民主主義が実現する。デジタル化は、そんな「夢」をもたらした。
「ネットには、無料で人々にサービスを提供し、衆知を結集して社会に役立たせるという理想主義もあった。だが現実にはそうなっていない」
東大の西垣通教授はいう。たとえば米検索大手グーグルの場合は、「キーワード連動型」や「内容連動型」広告で、巨額収入を上げている。たとえれば「ネット民放」に近い。グーグルは、無料で検索する個人の情報を大量に集め、広告に結びつけるが、個人情報をどこまで、どう使うかは企業秘密だ。
もう一つは「ウェブ民主主義」の内実だ。グーグルでは、グーグル人気サイトからより多くリンクされているサイトほど検索上位に上がる。人気のあるサイトは検索上位に現れるので、より多くの人の目に触れ、影響力も増していく。「強者はますます強く、弱者はますます弱くなる」仕組みだという。これでは少数意見を排除し、むしろ同調を強いることにもなりかねない。
「ネットの民意といっても、それは刻々と変わる最大瞬間風速に過ぎない。人びとはいつも主体的に選択しているわけではなく、流れに撒きこまれる。それを『民主主義』と標榜するのは、危うい」
このところ、内閣支持率などの世論調査によって政治の評価が定まり、影響を与える傾向が強まっている。『人気投票」で政治が動くなら、「ポピュリズム」に限りなく近づく。
私たちは「スピード」と「便利さ」のわなに落ち、何かを失ってはいないか。デジタル化の巨大なうねりにのみ込まれる前に、たまにはパソコンの電源を切って、しばし考えて見たい。
'10.7.21.朝日新聞・編集委員・外岡秀俊氏
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