散歩道<3755>
                           Opinionコラム・デジタル化(1)             (1)〜(3)続く       ・・・・・発想を変える
                            スピードと便利さのわな

 あれほどの日本代表の活躍に輪歌サッカーW杯も、固唾を呑んで見守った参院選開票も、なぜか遠い日々のように思える。
 同僚と話していて、ふと、そんな話題になった。以前は遠い昔のことを「つい昨日」のように思い起こすことが多かった。記憶の保持力や喚起力が衰え、昨日のことをつい忘れるほど忘却のスピードが加速している。
 私たちはパソコン文書を上書きするように記憶をあっさり更新し、体験の集積としての過去をやせ細らせてはいないか。どうもその傾向は、私たちの暮らしがデジタル化されたことと無縁ではなさそうだ。
 そんなことを考えたのは、11日まで開かれた東京国際ブックフェアに足を運んだからだった。「電子書籍元年」といわれる今年、大海上には、デジタル化の激流が渦を巻いていた。
 書籍や雑誌を、携帯やiPadなどの末端に編集し、変換するソフト。携帯コミックに、効果音や音楽を入れる技術。出版も印刷も雪崩れを打って競争に参入し、「スピード」と「便利さ」を求めるデジタル化が奔流になりつつある。
 だが「日本では普及まで、あと2、3年はかかると日本文芸家協会副理事長の作家、三田誠広氏はいう。奔流をせき止める堤防がいくつかあるからだ。
 第一は日本語特有の問題だ。「今の読み取り技術では、カタカナの『カ』と漢字の『力』の判別が難しい。末端によって異体字を反映できないなどの問題もあり、校正が欠かせない」
 さらに、電子化にあたって新たな契約が必要だ。そのルールづくりもできていない。紙の本の印税率は10%が多いが,三田氏は「電子本では売上げに応じて段階的に印税率をあげ、最高で約50%」にする案を模索している。
 奔流は避けられそうにない。「下手をすると出版社も書店も倒れかねない。限られたパイを分けるのではなく、パイを大きくする発想への転換が必要だ
'10.7.21.朝日新聞・編集委員・外岡秀俊氏
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