散歩道<3631>
opinion・新世界・国々の興亡
グローバル化「国家の復権」導く(2) (1)〜(5)続く
・・・ドイツの社会学者のウルリッヒ・ベックは最近「欧州だけでなく地球上のあらゆる場所の人びとを結びつけている感情は、強制的に統合されつつある世界が少しでもその強制の度合いを薄めてくれないのかという願望だ」と書いています。多くの人びとの気持ちをとらえた言葉のように思えます欧州は更に統合を進めなければならないのでしょうか。
小国を除いて、欧州の統合を長いこと望んでいた唯一の国はドイツです。欧州に、統合され、ドイツであることをやめることで、ヒットラやナチスや先の大戦の忌まわしい歴史から救われると考えたのです。しかし、今日の現実はこれ以上の欧州統合は誰も望んでいないということだと思います。統合されていない政治空間に統一通貨ユーロがあるという矛盾が続くはずもありません。ユーロはそもそも政治的妥協の産物だったのです。ドイツ再統一を恐れていたフランスはドイツを欧州統合に強く縛りつけることを統一の条件としようと考えました。それには単一通貨が最も都合がよかったのです。しかし、ギリシャやポルトガルなど経済の弱い国を引き連れれば、財政赤字によってインフレを生じかねない。それを恐れるドイツは「通過同盟には参加しよう。だが、統一通貨ユーロはドイツマルクのように強く、独立したものでなければならない」と主張しました。金利決定などで政治的干渉を受けなということです。ギリシャ危機はまさにこの政治的妥協の矛盾をさらけ出しているのです。
・・・欧州統合プロジェクトは「ドイツ問題」を克服する使命を達成したのでしょうか。
この20年間で最も変わったのはドイツです。かって私がイスラエルや英国などを批判的に語ると、ドイツ人は決って「そうした話題を話すのはやめましょう。私たちはそれを語る資格はないのですから」という反応でした。90年代以降、変化が生まれました。今や人々はドイツの国益を大っぴらに議論しています。ドイツを恐れているのはフランスではなくポーランドやリトアニア、中東欧の国々です。ドイツがロシアと手を結びつつあるのを目の当りにして30年代を思い起こしているからです。
'10.6.1.朝日新聞・ 歴史家・トニー・ジャット
