散歩道<3546>

                      経済気象台(564)・問われる起業家精神

 経理や財務の課長さんが、数字を見ながら仕事を慎重にかつ手堅く進めるのは当然である。しかし経営者はどうだろう。賃金の引き上げを巡る、昨今の労使交渉を見ていると、経営者の発言からは「起業家」としてのたくましさが感じられない。
 経営環境が厳しいことなどから定期昇給の停止まで検討していることを公言する経営者がいたが、現実には実行されなかったとはいえ、実にあきれた話だ。日本の賃金体系は定期昇給によって年々上がることを条件に、安い初任給からスタートするのである。定期昇給をストップするなら、採用時にそのことを告げていなかった「契約違反」の責任をまずとるべきだ。
 突然80%も仕事がなくなった昨年の工作機械産業のような場合は、ボーナスや賃金のダウンは多くの人に納得される。しかし、「便乗」的な発想は現に誡められるべきだ。経営の大変さを語ることは易しい。しかしそれで社員は奮起するだろうか。そんなことはない。リーダーの役割は、全体の目標を打ち出し、率いるメンバーを奮い立たせ、全員の力を引き出すところにある。
 会社の売上げや利益率の低下などは社員にも理解できる。というより、日々の仕事のなかで、社員は企業業績の「悪化」も「好転」も肌で感じているのである。むろん社員一人一人の努力や工夫も求められている。しかし最も問われているのは経営者の「器量」である。
 どのような経営をしたいのか。どのような新しい事業を起こしたいのかを積極的に語るべきである。数字を見ながら問題の所在を語るのは課長さんに任せればいい。先行きの経営を示すのが経営者の役割だ。

'10.4.17.朝日新聞