散歩道<3400>
面白い文章・バンクーバー・1位独占しなくても
前略、五輪もいよいよ最終競技(クロスカントリー50`)を残すのみとなった。3.1.は閉会式である。
ところで、カナダ五輪委が宣言した「OWN THE PODIUM」というスローガンが、いま地元メディアをにぎわせている。「表彰台を独占せよ」と訳せばいいだろうか。大会前に掲げたメダル総数1位の目標が選手に過度な重圧をかけているという。
大会も13日を終わりカナダのメダルは15個、トップのアメリカの28個に大きく引き離されている。
「今も米国を追い越せると思ったら、単なる楽天的な馬鹿だ」念願の地元開催の初金メダルは達成できたものの、22日には、スローガンの責任者が目標にとどかないことを事実上認めた。
スローガンの野心的な言葉に隣の米国は驚いた。米紙「ウオールストリート・ジャーナル」は「五輪の歴史上、これほど露骨な主催国のスローガンはない」。こうした自己中心的な愛国心は「まるで米国のようだ」とちゃかした。好調な米国代表からは、ショトトラックのオーノが「表彰台を所有するのはいいけれど、2月だけは米国が借りるよ」と軽口。カナダのメディアもこうした米国の視線を自虐的に伝えている。
20年前私はカナダのトロント大学に1年間、留学したことがある。そこで痛感したのは。「米国人と一緒にしないでくれ」というカナダ人の強烈な自負だ。外から見れば兄弟のような関係だが、裏を返せば、常に米国を意識せざるを得ない国民感情を垣間見た。
偶然だが、留学時の友人からメールが来た。「あのスローガンどう思う?」と電話してみた。「多くのカナダ人は別に気にしてないと思うよ。僕たちは何でも一番にならなくてもいい」という。超大国として常にテロにそなえなけれいけない。経済でも軍事でも1位の地位を守り続けるのはしんどいに違いない。それよりは、国民が幸せであればいいじゃないか。そんな感じの会話だった。
そう「何でも一番にならなくてもいい」。そんなカナダが好きだ。ちなみに、バンクーバーは住みやすい世界都市ランキングでたびたび1位になる街である。
'10.2.26.朝日新聞・ニューヨーク支局・田中 光氏
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