散歩道<340>

                          脳に関して(4)・衰える「探る能力」(2)           (1)〜(2)と続く
                                 まえ<339>から続く

 「人も個人同士なら、今は負けても将来勝つ、というふうに、何処かでバランスを取って優劣を認めない感性があります。自己と他者の対等性を重んじ、仲裁で闘争を防ぐ点ではゴリラと変わりません」「ところが、人は集団で暮らすようになると、個人のトラブルを集団同士のトラブルに転化する傾向が強くなります。人は集団で順応してしまいます。1人で工夫するより、類推の能力を使って、上手な他人の真似をするほうが楽です。善悪の判断も集団に委ねるほうが楽です。こんな傾向から、国家や民族が実態があるかのように作られてきました。ある生物の絶滅を個人がまずいと思っても、集団が絶滅させる方向に向かえばなかなか止まらず、多くの自然を壊してきたのです。これを自覚しなければ、地球環境は守れません。「互いに顔やくせまでよく知っている類人猿の集団は多くて50頭ほどですが、言葉のおかげで人ではこれが150人ほどに増えたといわれます。しかし今は、テレビ、パソコン、携帯電話を通じてより多くの人に接するようになりました。アフリカの紛争で人々が傷ついていることを具体的に知ることも出来ます。けれども、そうして接した人々に共感できるでしょうか。身近なコミュニティーでさえ崩壊しているのが現実です。相手や場の気配を探るといった能力は、本来身近な集団の中で養われますが、機械に頼ってこの能力が衰えているのです。まず、身近な人と共に生きることを喜ぶ感情を回復する必要があります。そこから、身近な集団やそれを超えた人々と共感できる新しい心の回路を作らなければなりません。

'04.7.24.朝日新聞・京都大・山極寿一教授