散歩道<3394>
opinion・どうしたトヨタ(2)・「複雑化」の魔物に力負け (1)〜(4)続く
先頭走って大転倒
しかしなお、注意と能力が足りなかった。それは。直面する課題が圧倒的に複雑だからだ。端的に言って、21世紀前半、先進国の自動車産業は「複雑化」という魔物と格闘せざるを得ない。能力構築で複雑化に挑む「長距離障害物構想」に、産業全体が放り込まれているのだ。
ではなぜ、先進国の自動車は複雑化するのか。それは自動車が本質的に「公共空間を高速で移動する高額な重量物」だからだ。交通事故、大気汚染、地球温暖化、石油枯渇などの自動車が社会に与える負の影響を甚大と見る先進国は、厳しく安全・排ガス・燃費などの規制を課してきた。一方、高額商品ゆえ顧客の要求も際限なく厳しくなる。
それらを前提に、企業の設計チームは巨大な連立方程式を解く。技術者は個々には設計簡素化を目指すが、社会や市場がそれを許さず、自動車の全体設計は複雑化する。とりわけ制御系は爆発的に複雑化する。ハードの部品は依然3万点を超え。ソフトは1千万行を超す。これが先進国社会が要求する21世紀の自動車だ。デジタル製品とは様相が異なる。電気自動車も当面、決定的な解とはならぬ。
この複雑化レースで、チーム設計・チーム生産を得意とする日本企業の現場は、多くが先頭集団を走っている。しかし、追い風を受けて快走していたトヨタが大転倒した。それが今回の品質問題だ。
ではなぜ転倒したか。
第一に、設計複雑化という魔物に力負けした。すり合わせ型で、設計要素群が複雑に絡む自動車は、機能も不具合も非線形的に発現し、問題の予見は難しい。今回も、一つは制御ソフトという本命、他はアクセルペダルという伏兵であった。
日本の自動車企業や部品企業は、設計簡素化(モジュール化)開発能力増強、デジタル開発、品質工学、自動制御、品質管理、購買管理などを総動員して、この問題に対処した結果、開発速度や開発生産性で世界をリードした。トヨタは量産型高級車やハイブリッド車といった複雑設計車で先行した。
しかし、こうした能力構築努力をもってしても、この魔物は押さえ込めなかった。先頭を走るがゆえの挫折ともいえる。
'10.2.12.朝日新聞・東京大学教授・藤本隆宏氏
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備考:とに角、トヨタには日本企業代表として頑張ってほしい。
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