散歩道<3308>  
                          
                    社説・地球文明・低リスク型へかじ切る年に(1)                   (1)〜(3)続く

 17世紀前半。イギリスの思想家、フランシス・ベーコンが未完の寓話(ぐうわ)を遺(のこ)した。物語はこうだ。
 欧州の航海者達が、孤島に漂着する。優れた社会制度や技術を持つ理想郷があり、森羅万象を追求して人間に役立てる研究学院があった。
案内されると塩水から淡水をこしだす施設があった。自然の薬草と殆ど変わりのない薬を合成する方法も発見していた。急流と滝は多くの動力に活用され、風車の利用も盛んだった。太陽、その他の天体が放つ熱のようなものをつくり出す施設もあった。
 地球上で、人間が「君臨」する領域を広げていく。学院はいわば、そんな人間活動の象徴だった。
 振り返ってみれば、この寓話は新時代の到来を予感させるものだ。ベーコンの没後、産業革命に火がつき、世界の工業化が進んだ。人間の知の地平は広がり、巨万の富が蓄積された。多くの病気も克服され、科学技術は人間社会に大きく貢献していた。
 だが今・・・。地球は人間の「君臨」に悲鳴を上げている。気候変動、生物多様性の喪失、核戦争の危機、人口爆発。気づいてみれば、私たちの文明は数々のリスクに囲まれている。


'10.1.3.朝日新聞