散歩道<3270>
                   霊長類研究者・山極寿一さんに聞く 理由なき殺人 なぜ続く(2)              (1)〜(3)続く

会食の場で学習
・・・共感を育むうえで食事に注目しているそうですね。子どもたちが初めて他者との葛藤(かっとう)を経験するのは、食事の席だと思う。年上の仲間と食卓を囲み、みんなと同じものを食べる。みんなの気をそこねないように手を出す必要があるし、仲間と取る順序を決めたり食物をめぐる葛藤を抑えて楽しく食卓を囲むことが共感の力を育てる。
・・・・これは他の霊長類にもあるのですか。会食は人間以外の霊長類には決して見られない。食べ物は仲間との間にけんかを引き起こす源泉であり、サルや類人猿達はトラブルは避け、互いに離れあって個体単位で採食しようとする。日本各地にある野猿公苑
(えん)で、餌の時間にニホンザルたちが群がってくるのを見ると、サルたちはなるべき顔を合わさないようにして、背を向けあって餌を食べる。体の大きな強そうなサルが近づくと、それまで餌を食べていたサルは餌に手を出さず、相手の顔をみないようにしてその場を譲る。サルの社会では、注視は威嚇を意味し、相手を見つめるのは強いサルの特権だ。ゴリラ、チンパンジーでは、注視は威嚇を意味するとは限らない。体の小さいゴリラが大きなゴリラをじっとみつめることもある。おいしそうな食物を食べている大きなゴリラに近づき、顔を近づけて採食場所を奪うことさえある。チンパンジーはもっと積極的に相手に食物の分配を要求する。体の小さなチンパンジーは大きなチンパンジーに手を差し出して、相手の口や手から食物を取る。チンパンジーが食物の分配を通じて相手との親和的な関係を確認する行為とされている。
・・・それでも人間の食事と大きく違うというわけですね。人間は相手に請われないもしないのに、わざわざ自分から食物を与える。自然の食物をその場で食べず、自分に必要な量より多くの食物を集めて仲間のもとへ持ち帰り、それをいっしょに食べる。さらに人間は仲間と向かい合って食事をすることを好む。人間の目には瞳の部分と白目の部分があり、その動きによって内面の変化を察知できる。白目のない類人猿は向かい合ってもこうしたコミュニーケーションはできない。人間の家族はこのような食の共同によって生まれたと思う。人間は食事の場を公にすることで家族の孤立を防ぎ、より大きな地域社会の編成を目指してきたのだろう。

'09.11.30.朝日新聞・霊長類研究者山極寿一さんに聞く

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