散歩道<3213>
私の視点・あふれる出版物(2) (1)〜(2)続く
アジアの大図書館を日本に
そこで提案だが、日本政府が東アジアの諸政府に呼びかけ、アジアが生み出す知識を集積する機関を共同で設置してはどうだろう。20世紀に生まれた欧州共同体は石炭や鉄鋼を媒体として生まれたが、21世紀の東アジア共同体は、知識の相互作用を媒体として生まれる、と言ったら大げさだろうか。
実現には巨大な書庫が必要だが、幸い日本にはいいものがある。時代遅れになった千葉や大阪南部のコンビナートの建物群だ。これを転用したらどうか。新たなハコモノを作る必要はない。アジアの情報を集積し、編集し、新たな知識を生み出す、「知恵のコンビナート」に作りかえるのである。プトレマイオス朝のアレキサンドリア*1図書館やアッバス朝がッバグダッドに設立した「知恵の館」のような、人類史上に燦然(さんぜん)と輝く機関を作るのも夢ではない。
重要なのは単に集めるだけでなく、整理・分類し、公開することだ。アジアの言語と文化に通じた優秀なライブラリアンを多数養成し、資料を系統的に収集する態勢が必要だ。さらに、資料を解読し、重要な情報を取り出して発進する人を配備しなければならない。実のところ、日本には適した人材が既に相当養成されている。「高学歴ワーキングプア」として苦境に喘(あえ)いでいる膨大な数の修士号所持者たちだ(これは大学院重点化政策の結果である)。「東アジア共同図書館」は彼らの活躍の場ともなろう。
この図書館の中枢を日本が担い、強力な物的人的基盤を構築するならば、世界中からアジアに関心を抱く人材が集まってくる。それは日本にとってまたとないソフトパワーとなる。ここから人類の危機を乗り越えるための知恵が生み出されると私は確信する。必要な経費は八ッ場(やんば)ダムよりもずっと少ないに違いない。
'09.10.29.朝日新聞・東京大教授・安富 歩氏
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