散歩道<3039>
ザ・コラム・ポリティカ・ニッポン・変えちゃいけないものもある(1) (1)〜(3)続く
政権選択の夏
また、戦争の記憶がよみがえる夏が来た。あわただしく1年を過ごしていても、夏がくれば、戦争のことを思い出す。
戦後、旧満州から引き上げてきた羽田澄子さんがつくった映画「嗚呼(ああ)満州開拓団」を見た。「満州国」建設の夢に踊らされた農民の悲劇を、「いつかはつくらなければ成らない。いまラストちゃんす」と羽田さんが心を込めて撮ったドキューメンタリーである。
戦前、冷害飢饉(ききん)、繭(まゆ)の暴落で極貧におちた農民に、政府は「行け満州へ 拓(ひら)け満州を」とあおりたてた。だが、敗戦、ソ蓮兵の侵攻で、開拓農民はあわただしく逃げなければならなかった。
軍人の家族はいちはやく列車で逃げた。取り残されて歩きつかれて死んでいく老人、殺される赤ちゃん、水とビスケットを持たせて野原に置き去りにされる男の子。身を寄せた残留婦人。満州に果てたこれら農民もまた「日本軍国主義の犠牲者」として「日本人公墓」をつくってくれた周恩来。
羽田さんが訪ね歩いて聞いた人々は、いま日本の街や村ですぐとなりに生きている人々である。ああ、国策の誤りによって、こんな苦しみを胸に秘めて戦後を生き抜いたんだなと思うと、私は、「政治」というものの責任の重さを改めて噛(か)みしめるのである。
'09.7.30.朝日新聞・本社コラムニスト・早野 透氏
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