散歩道<3003>
池澤夏樹さんの「終わりと始まり」の文章・空中の視点とエコロジー・を読んで(1)、 (1)〜(2)続く
映像の美しさのみで訴える
さる六月五日、つまり世界環境デーの午後十時、エッフェル塔で映画が上映された。巨大なスクリーンを設置して、隣接するシャン・ド・マルスの広場をピクニック気分の観客が満たした。上映時間は一時間三十三分。その映画とは映画『HOME 空から見た地球』。監督はヤン・アルテュス=ベルトラン。
ドラマではない。もっぱらヘリコプターによる、実写を連ねたドキュメンタリーである。さまざまな自然を摂り、人工物を取り、人間を摂り、そこに音楽とナレーションが加わる。製作の基本となる思想はエコロジー。
映像は美しい。この映画はその一言に尽きる。ゆっくりと動く空中の視点からの風景が提示される。息を呑んで、目を奪われ見て、ずっとみていたいと思うと次の場面に変わる。空から摂るという手法に特化し、作品が作られている。
彼の写真はいいが、動画の方がもっといいと今回思った。具体的に話す。
乾いた茶色い土の上を四人の女が歩いているのを真上から摂る。色鮮やかな衣装を着たアフリカの女性。四人とも頭に派手な色のプラスチックのバケツを載せ、最後の一人のバケツには薪か収穫物のようなものが詰まっているが、前の三人のバケツの中は水だ。頭上という特異な視点が意表をつく構図を生み(影が美しい)、その動きにまず見とれる。その後で、生活のための水を運ぶくらしの現実に思いいたる。バケツの中身が水であることは動画だからわかる。僕の手元に同じ場面のスチル写真もあるが、揺れない水は見えにくい。
自然の画像は,瀑布であり、氷河であり、沼地を行く象の列であり、頭を外側にして円形に密集した北極地方の麝香牛(じゃこううし)であり、ワイオミング州の火山地帯の熱水をたたえた湖であり、冠雪を失ったキリマンジャロであり・・・
'09.7.4.朝日新聞・作家・池澤夏樹さん
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備考:この四人の女性が砂漠を歩く姿は、想像するだけで焼けつく感じである。