散歩道<2983>
                       社説・オピニオン・水俣病の政治学(5)               (1)〜(5)続く

 水俣病の未認定患者問題で蒲島郁夫熊本県知事が動いた。先月末、水俣で被害者と会ったそお足で永田町へ。別々に救済法案を出した自民、民主両党幹部に今国会成立を訴えた。合意形成のポイントはどこか、政治学者出身の知事に「水俣病政治学」を聞いた。

○  ○          地元に寄り添い、きめ細かい解決を
 よくある水俣病の症状に、手足の先端ほど感覚が鈍くなる障害がある。「沸騰した湯を体にかけ、焼けただれた肌を見て、熱いと気づいた」という人もいる。現行の認定基準では、こうした感覚障害だけでは水俣病と認定されない。そんな「未認定患者」が現在、約3万人いる。
 社自さ政権下の95年、未認定患者約1万人に一時金などを支給する政治決着が図られた。だが04年、関西訴訟最高裁判決が行政の認定基準より幅広く賠償を認め、認定申請者が急増。熊本県が事態打開の為「95年と同様の政治決着」を求め、現在の与野党協議につながっている。
 蒲島熊本県知事は、与野党が救済法案を国会に提出した現状を「機は熟した」と分析している。56年の水俣病公式確認以来、熊本・鹿児島両県の認定患者2269人のうち7割以上が亡くなり、認定されず亡くなった被害者は数知れない。高齢化が進む中、早期救済は切実な課題だ。
 与党の救済法案には、原因企業のチッソの分社化規定や、認定制度を終わらせる地域指定解除の条項が盛り込まれ「水俣病の最終解決」がうたわれた。だが、最高裁判決が断じた国や熊本県の責任や、現行認定基準への疑問に答えた文言は法案にはない。「自分は水俣病だ」との訴えが認められず「にせ患者」の偏見に苦しんできた被害者にとっては、水俣病と認めるかどうかの一点をあいまいにしたまま、チッソと行政にとっての「水俣病問題」を終わらせるための法案にも見えるのだ。
 水俣病をめぐる蒲島知事の言動には「顔が見えない」との批判がつきまとうが、かといって強い異論が残るまま決着を急げば、かえって地元にしこりを残しかねない。最高裁判決で行政責任が確定している熊本県と、その長である知事が取るべき姿勢は、被害者や地元に徹底的に寄り添うことではないか。たとえば県が国に求めてきた住民健調査を実現させるなどして実態の解明を進め、地元に蓄積した不満を汲み取り、きめ細かい解決を目指して欲しい。


'09.6.10.朝日新聞・蒲島郁夫熊本県知事