散歩道<2919>
       対談・作家・池澤夏樹さん・本社主筆・舟橋洋一(1) (新聞の機能や役割、そして読者への発信のあり方はどう変わっていくのか)。 (1)〜(3)続く
                新聞大人の入り口(池澤夏樹さん)     読む楽しさ伝えたい舟橋洋一さん   

新聞を取り巻く状況
船橋:100年に一度の経済危機と言われています。メディアも同じくらい大変革期に入っています。いまのメディアについてどうお考えですか。
池澤
4年前からフランスに住んでこの10年から随分旅をしてこの間世界をあちこち見てきました。僕自身のキーワードが「世界」という言葉です。ここ10年で自分にとって大きかったのは世界と自分とのかかわりから、メールマガジンを始めた。きっかけは米同時多発テロ。自分の考えと新聞、テレビ、雑誌報道していることが随分違いました。特に事件直後の報道では米国側の視点はあっても、アメリカに反発する人々の側からの報道は少なかった。
船橋:ニューヨーク・タイムス等のクオリティーペーパーは、イラク戦争開始前の02年夏ごろから主戦論一辺倒になりました。イラクの現場からの報道も極めて難しくなりました。同年12月NGO「International Crisis Group」は、イラク戦争前にイラクの人々が今、どういう状況になり、どう思っているか的確に伝えました。ジャーナリズムの一人として無力感を感じたことを覚えています。
池澤
私は02年秋にイラクに行ってあの国の社会を見ました。当時は日本や欧米のメディアはイラク国民のことを全く報じてはいなかった。
船橋:
03年の年明けのコラム(1月30日付け)で、私は残念だが、戦争は不可避。戦後のイラクで日本はこういう役割を果たすべきだ」と言うことを書きましたら、「最後まで戦争を予防しようとするのがジャナーリズムだとお叱りを受けました。
池澤:
イラク開戦前、アメリカでもヨーロッパでも大規模な反戦デモがありました。日本ではとても低調でした。世界の動きに関心がない。日本社会への関心さえ薄い。本当に自分の身辺にしか興味がない。
船橋:
新春の朝日新聞文化面に「感情模索」では、「ミニュマムなリアリティー」という言葉を紹介しています。つまりマスの対極にある、極めて個人的なものにリアリティーを感じ、共感する一群がいるということのようです。ひいては、物事にあまり深く絡め取られたくないし、付き合いもほどほどにするという考え方なのかもしれない。公憤や新聞へのプレッシャーもかってほどではない、という感じがします。新聞は埋もれる声と真実を真底つかみ出す「ラジカルリアリズム」を追求しなくてはと思っています。我々がもっと国民的課題を設定していかないといけないのではないでしょうか。 
池澤:
ミニュマムなリアリティーの実感は芥川賞候補作からも感じます。男と女は友達のままで恋人にはならない。世界観はないし主義主張もない。でも感情はたっぷりある。「大いなる物語」なんていらないと割り切って暮らしているんです。公的な状況も私的に解釈するから、公憤のかわりに私怨(しえん)が炎上する。イラク人質事件*1の高遠菜穂子さんらへ向けられた批判はその一例だったと思います。


'09.1.23.朝日新聞・対談・作家・池澤夏樹さん・本社主筆・舟橋洋一氏

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