散歩道<2920>
                      対談・作家・池澤夏樹さん・本社主筆・舟橋洋一(2)              (1)〜(3)続く
                     新聞大人の入り口(池澤夏樹さん)     読む楽しさ伝えたい舟橋洋一さん   

新聞の機能
船橋:4月から朝日新聞の検証を始めます。それをしながら思ったのですが、例えば1931年の満州事変。第一報を知らされた幣原外相は、閣議で「軍部の仕業ではないのか」と問いただす。当時の記者がこれを特ダネとして報じたら、国会はハチの巣をつついたように大論争になったでしょう。権力の中で何が起り、何が隠されていくのか。権力の矛盾をつき、それを書くのが私たちの仕事だと思います。それから戦争になったらもう遅い。一番大切なことは予防だと思います。
池澤:政策についていくつかの選択肢があって、それが政権内部の権力闘争と結びついている場合、その構図全体が報道されれば、政策は国民に見えるところできめられる。満州事変の時のメディアにはその力がなかったということですね。
船橋:インターネットは重要ですし、ここにもジャーナリズムを育てる必要があります。ただ、現時点で同時進行で権力取材・権力監視ができるのは新聞だと自負しています。
池澤:
ネットやブログは結局、広場のざわめきなんです。ひとつひとつの声は声高でないけれど、近づいて耳を澄ますことは出来る。
船橋:
私たちはオピニオン面の機能が大事だと思っています。そこでは、当事者に真正面から発言してもらう。批判するだけでなく、批判対象となっているものに取り組む人々、批判されている人々にも登場してもらいたい。そこから論点をもっと鮮やかに浮かび上がさねば、と考えます。
池澤:メールマガジンに力を入れていたころ、家庭や職場や教室の議論の場で反戦側に立つ人に論拠を提供するのが自分の義務だと思っていました。なぜ戦争をしてはいけないかという理由をまとめる。それは新聞の機能でもありますね。
船橋:
池澤さんには朝日新聞に小説「静かな大地」を書いて頂きました。新聞小説は外国の新聞には、なかなかない売り物です。新聞小説は、時間軸、というかパースペクティブ(視野)が深く取れるんです。池澤:読者は、こちらが投げた球を、ちゃんと受けとってくれます。ちょうど、聞き手の皆さんを前に朗読しているような感じです。書くとすぐに反応が来る。「静かな大地」でも、最後の方で「主人公に悪いことがおこりませぬように」という願いの投書が着ました。船橋:読者と対話しながらの取材・報道を、もっとやらなくてはいけないのかもしれませんね。
池澤メールマガジンは双方向的ですね。反応が、ばんばん来ます。間違いはすぐ直してくれるし、激しい反論も来る。雑誌などと違ってメールマガジンの記事はいわば抜き身で読み手の胸元に飛び込む。強い表現をすると強い反発を買う。だから、おだやかにおだやかに説明するんです。「子供電話相談室」のような文体がいい。
船橋:
新聞記者もネット用、プログ用、携帯用、新聞用と文体を変えて、それぞれ公に出していくのが21世紀の職人芸なのでしょうか。
'09.1.23.朝日新聞・対談・作家・池澤夏樹さん・本社主筆・舟橋洋一氏