散歩道<2916>
                 興味ある追悼文章・ 加藤周一さんの追想(2)            (面白い文章に分類)    (1)〜(3) 続く                          
         5人の著名な加藤周一さんと親交があった方が追想の形で書かれているので自分なりに纏めた。それらの方の表現で興味あるものを抜粋した。


いつもはるかに遠い
 アンリ・ファーブルのような緻密さ、ジュール・ベルヌのような飛躍、あるいは今西錦司のごとき自由な変幻さに憧れて、はるばる京都大学に進学した私は目の前の現実に半ば失望していた。「私は医学の研究室で暮らしてきたにも拘わらずではなく、まさにその故に、研究室を離れることを考えるようになった。しかし私が医を廃するに至ったのは、多忙に堪えなかったからではない。医学の研究は、また専門化の極端に進んだものである
*2(中略)しかし極端に専門化した領域では、私ひとりの人生と研究の内容との間に、どういう橋わたしをすることもできない。おそらく詩作に没頭するのは、学問の研究に没頭するのとはちがうだろうし、李杜の詩の内容は、李杜の人生のほかにはなかったはずであろう。私は詩を必要としていたといえるのかもしれない」私は衝撃を受けた。これが本の最後に置かれていたからだった。彼はおびただしい本を読み、そして多くを書き、世界中を旅し、少なくない数の女性を愛したのちに、そこへたどり着いたのだ。この言葉は、重い金属の塊のようにゆらりと揺れながらまっすぐ私の心のそこに沈んだ。私は分相応の穴を掘ろうとだけ思った。すこしづつゆっくり時間をかけて、いつかたゆまず堀進められたその穴が十分な深度に達したとき、何らかの水脈に触れるだろう。それはファーブルの、あるいはベルヌの詩と繋がっているかもしれない。・・・・二度と繰り返されない、かけがえのない、瞬間の経験。その密度は長い年月の重みともつり合うだろう」絶え間ない消長、交換、変化を繰り返しつつ、それでいて一定の平衡が保たれているもの。それは恒常的に見えて、いずれも一回性の現象であること。そしてそれゆえにこそ価値があること。生命現象を、あるいは世界を、そのようなものとして捉(とら)えようとしてようやく気づいた私にとって加藤周一はいつもはるかに遠い'09.2.14.(青山学院大教授・分子生物学者・福岡伸一氏)
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日本文化への警鐘と愛
 氏はこの世で現在起っている出来事と、過去ではあっても現在と深く関わる出来事の両方について、それが何であるのか、見定めるための基準を与えてくださった。そしてその基準は常に、自由と平等と連帯、反戦平和と民主主義の精神に貫かれていた。24年間にわたる「夕陽妄語」をはじめ、講演や座談会の記録、そして九条の会での活動を通じて、加藤氏はかけがえのない先達でありつづけ、これからもそうあってくださるだろう。なぜなら氏の書かれたものはゆるぎなく、読み返すたびに新しいから。氏の文章も話も分かりやすいことを強調しないわけにはいかない。具体的事実をまず提示して、その問題点を明確に分析整理する。しかる後、それを前提に洞察や推論を行い、展望を示す。提示されることが常に具体的であり、論理展開が厳密、明晰(めいせき)であるおかげで、結論に至る論旨の筋道が凡人にも辿れるだけでなく、信頼に足るものであることを確信させる。この緻密(ちみつ)で深いがゆえの分かりやすさや面白さは、具体的な実証主義を持って臨んだ驚くべき労作「日本文学史序説」をはじめ、日本文化の特徴を論述した諸作でも一貫している。例えば紀貫之が春・秋の歌のなかでうたった花が六種類、小鳥に至っては二種類しかないことを指摘し、「貫之が花を愛し、小鳥を愛していたとは考えにくい。彼は何を愛していたのだろうか」と問うところから論を進める。美化・神秘化されてきた日本文化のベールを引きはがし*3、文化領域にこそ、それがしっかりと反映していることを具体的に論証した。「利休は何を発見したのか」と問い、「茶室において、文化の原型を発見したのである」。」利休という現象は、つまるところ(中略)、日本文化の文法の意識化にほかならなかった」と答えて、その「文法」を列挙し詳述する(1此岸(しがん)性、2集団主義、3感覚的世界、4部分主義、5現在主義)。国際的現代人としての加藤周一氏は「今=ここ」主義の危うさに警鐘を鳴らしながらも、同時にその成果である日本文化を深く愛した。'09.2.18.(アニメーション映画監督・高畑勲氏)
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