散歩道<2899>

                         経済気象台(439)・異形の国家

 米国発の金融恐慌の結果、ゼロ金利の円を借りて、高金利通貨で運用するいわゆる円キャリアー取引の巻き返しが起り、各国通貨が暴落し、円が高騰した。この結果、過度に輸出依存の日本経済は、たちまち景気悪化に陥り、経済界、政治家、メディアはこぞって円高不況を懸念している。
 経済発展を順調に実現した国家は、本来強い自国通貨によって、豊かな生活を享受することが出来るはずだが、ここには、自国通貨が強くなることを恐れる異形の国家がある。
 円高不況には、内需拡大が最良の処方箋である。だが、環境、介護、医療といった未来志向の産業政策を遂行すべきもかかわらず、内需拡大のための財政出動を絶好の口実に、ひたすら利権政治の横行を許し、官僚支配の強化を招いた。環境破壊につながるダムをつくり、無駄な道路や橋をつくることで、土建業者、官僚、道路族政治家を肥大化させてきた。
 また、米の減反政策を推進し、食料自給率を低下させ、農村を荒廃させながら、農協を肥大化させ、農林族議員と農水省を存続させてきた。GNPの1%を占めるに過ぎない産業を所管する官庁は、組織存続のため圧力団体に目を向けるしかなくなっている。農水相のスキャンダルや汚染米問題などが勃発するのも当然の帰結かも知れない。
 消費者ではなく、供給者の利権に縛られた政治家たちが、組織の利権を優先させ、行政能力の劣化が著しい官僚とともに政策決定を行う結果、高齢者、妊婦、失業者といった弱者が追いやられ、社会が崩壊に向かっている。ここには、繁栄から急速に衰退に向かう異形の国家の姿がある。

'09.4.9.朝日新聞