散歩道<2860>

                  面白い文章(83)・論説委員室から英国流の外交観  

 外交や国際政治に携(たずさ)わる人に求められる資質とは、何だろうか。
 以前知り合った東京在勤の英国外交官を思い出す。1人は大学でギリシャ・ローマの古典を学び、1人は英文学、1人は医学部卒だった。法学・経済学部出身者が多い日本とはだいぶ違う。
 実務的な知識よりも、広い教養に裏打ちされた総合的な判断力を身につけた人がふさわしいという考えなのだ。かっての大英帝国の遺産なのだろうか。英外交官の力量が国際舞台で評価されるのも、こういう素地があるだろう。
 国際政治を扱う学問も同じで、数量的手法などを取り入れて精密な理論体系を築いた米国流と違って、英国では哲学や歴史を踏まえ、コモンセンス(常識)を重んじる学風である。
 そんな英国学派の代表的存在であるケンブリッジ大学のジュームス・メイヨール教授の「世界政治」
(田所昌幸訳、勁草書房)の翻訳(ほんやく)がこのほど出た。
 民主主義や進歩など。我々があたりまえのこととして受け取り、深く吟味
(ぎんみ)していない言葉を再検討することで、今の国際政治を読み解いていく。
 昨年ケンブリッジで直接話を聞いたとき、人間がもつ驕
(おご)りや弱さに目配りしながら国際政治を論じていく作法に目を開かれる思いがした。政治とは、結局人間を理解することなのだ。力を振り回した米国のブッシュ前政権の外交が破綻(はたん)した今、そんな英国流から学ぶことも多いのではないだろうか。

'09.3.31.朝日新聞
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備考:中国の今のトップの政治家の10人の内8人までが、技術者であるという話を聞いた記憶がある。