散歩道<2839>

                  私の視点・雇用問題・人材中心主義に転換せよ(2)               (1)〜(2)続く

 日本同様、経済危機に陥っているドイツの労働者を代表する金属労働組委員長のベルトホルト・フーバー氏は、政府の雇用対策をうんぬんする労使双方を戒め、「今の経済危機においては、利益は私有し、損失は社会化する」という流れを断ち切らなくてはならない、と指摘している。
 また、経済界トップのディター・フント氏
(ドイツ経団連会長)は、この危機は福祉国家の存亡を問われるものであり、第1次の政府の不況対策費約4800億ユーロ(約57兆円。ドイツの公的年金受給者の年間年金受給額の2倍、教育予算の数倍)の投入を、金融、雇用、福祉のいずれかにするのか、慎重に考えるべきことを提案している。ドイツ以上に財政出動の余地の少ない日本では、逆にこの議論が忘れ去られているのである。
 第三は、日本経済の底の浅さの露呈という側面が危機を一層深刻なものとし、かって、輸出依存型経済を内需拡大型経済に変革すると唱えられたいわゆる「前川リポート」の内容が、空前の対外資産・貿易黒字減らしの一時的なスローガンに終わり、規制緩和の結果、かえって国民の格差拡大につながったといえる。とりわけ、若い世代の失業率の高さ(たとえば、07年のドイツの失業率は7.2%、うち25才未満は6.4%。日本は3.9%と7.7%)や、技術・技能の伝承がなされるべき次の世代が企業の内外で育っていないことを憂える経済界のリーダーは少ない。
 規制緩和、雇用改革のスローガンの下、派遣労働の製造業への全面解禁や、違法な業務請負すら自社の利益拡大に利用してきたことの反省が、労使から聞かれないのである。
 産業界、そして政府は、21世紀の礎とな「人材中心主義」に転換しなくてはならない。換言すれば、短期的利潤の追求型経営、雇用改革の名の下の人材使い捨て経営を一刻も早く改めることが必要である。市場経済は、経済倫理を内包しなければ崩壊してしまうのである。


'09.3.5.朝日新聞・青山学院大教授・手塚 和彰氏

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